Think of Fashion 020

イヴ・サンローラン 芸術家とデザイナーの狭間で

講師:井伊あかり(跡見学園女子大学・早稲田大学非常勤講師)

2014/9/23

21世紀を迎えて間もない2002年1月22日、ポンピドーセンターで開かれた盛大なレトロスペクティブ・ショー。「モードの帝王」イヴ・サンローランの引退は、ひとつの時代の終わりを象徴する事件であった。

1958年の伝説的なデビュー以来、40年にわたりパリ・モードに君臨。オートクチュールの衰退とプレタポルテの台頭という過渡期、その結節点ともいうべき場に存在し、20世紀後半のファッションを決定づけたのがサンローランである。

ジェンダーやジャンルの壁を越えた革新的スタイルを打ち出し、ファッションの可能性を切り開いた60年代。続く70年代、香水の広告など積極的にメディアの前に自らをさらす一方で、過去の芸術や衣装に着想した懐古的ともいえるスタイルを発表していった。

プレタポルテの旗手としてファッションの前衛を突き進んだ彼が、再び己の存在意義を見出すのは、芸術性を追求したオートクチュールにおいてであった。

こうしたサンローランの変節は、ファッションにおけるクリエーションとは何か、さらに、ファッションデザイナーとは何か、という問いを発しているように思える。

サンローランの活動を、20世紀文化という文脈の中で捉えながら、その答えを探る。

   

井伊 あかり(いい・あかり):
1975年富山県生まれ。パリ第一大学DEA課程修了、東京大学大学院総合文化研究科博士課程単位取得退学。ファッション雑誌の編集・翻訳を経て、跡見学園女子大学、早稲田大学非常勤講師。専門は服飾文化、表象文化論。共著に『ファッション都市論』『ファッションは語りはじめた』『相対性コムデギャルソン論』、訳書に『モードの物語』がある。