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Fashion y 018 ファッションを伝える
『ROBE』編集長 佐藤亜都

学生とファッション業界を繋ぐ講座、Fashion y。第18回目の講師は『ROBE』編集長の佐藤亜都さんです。パリに東京に、ファッションの現場を日々駆け回り、取材する佐藤さん。社会人3年目とは思えないほどバイタリティあふれる佐藤さんから、ファッションに対する熱意、そしてファッションを伝えるという仕事の魅力についてお話いただきました。
   

『ROBE』について

Webマガジンから始まり、現在はファッションタブロイドとして発行している『ROBE』。ジャンルレスにファッションを楽しむ「越境レディ」をコンセプトとし、現在第2号までが発行されています。

もともと佐藤さんは、所属するスタイラー株式会社で『STYLER(*2017年9月にFACYに改名)』というO2Oサービスとオウンドメディアの運営に携わっていましたが、スタイラーに当時まだ女性向けメディアがなかったということで、2016年2月に『ROBE』を立ち上げました。同時に編集長に就任した佐藤さんは、「自分自身も読みたいと思えるようなコンテンツ」を意識し、ファッション感覚の若い人を対象にしたWebマガジンとして『ROBE』の運営を開始します。その後、「読者により考えてもらえるようなコンテンツ」を盛り込み、2016年11月にタブロイド版として再出発。
「タブロイドとして発行するためには、印刷費もかかります。限られた予算のなか、どのように紙面を埋めるかは悩ましかったです。創刊号は『your pink?』というテーマを切り口に、真実とは何かを問いかけました。例えばミレニアルピンクというワードがありますが、これはSNS映えを狙って世間から押し付けられたピンクではないだろうか。本当に個人が好きなピンク、真実とは何かを座談会で論じました。炎上の不安もありましたが、インデペンデントだからこそ自由に問題提起したかった」と語っていただきました。

紙面企画では撮影も自身で担当されたとのことで、創刊にあたり奮闘された様子が窺えます。それでも、「一つのものを複数人で意見をぶつけ合って作り、初めて一つのファッションシュートをやり遂げた達成感を感じました」との言葉からは、タブロイド版『ROBE』への強い愛情も伝わってきます。

・旧『ROBE』ウェブサイト

   
   

佐藤さんの仕事内容

佐藤さんが手がける仕事は、『ROBE』の編集だけに留まりません。多岐に渡る普段の仕事内容についてもお話しいただきました。
   

1.イベント取材
コスメやお菓子の新作発表、ファッションブランドの新店舗オープンイベントなどの取材を行います。取材頻度は週3回ほど。例えばコスメでは新作を自ら試し、写真を撮り、その場で感じたことをメモし、記事を作成します。イベント取材は分け隔てなく実施しているとのことで、企業の戦略発表会に参加することもあるそうです。
   

2.展示会周り
トレンドをキャッチするためには展示会周りもかかせません。デザイナーとの人脈作りも大切な仕事の一つですが、佐藤さんの場合、デザイナーの人となりからブランドを理解し、正しく発信したい、という思いも強いそうです。また、展示会で買った服の日常生活での着用感を自ら体感することで、説得力のある情報発信を心がけているとのことです。

・化粧品の新商品発表会取材 ・展示会取材(LOKITHO 2018SS)
   

3.コレクション取材
パリや東京のコレクション取材。シーズン中はかかりきりのようです。

・PASKAL 2018SS

・パリコレクションのスナップ(2017年9月撮影)
   

4.タイアップ企画の進行
企業からの依頼を受け、PR記事の作成を行うこともあります。Web版『ROBE』では、ブランドバッグのレンタルサービスを手掛けるLaxusとタイアップし、シーン別にスタイルを提案する企画を実施しました。

・ブツ撮り撮影中の佐藤さん
   

5.『ROBE』タブロイド紙制作
タブロイド版『ROBE』最新号では、「Hero in mind」をテーマに男性モデルの今井太郎さんが起用されています。佐藤さん曰く、ヒーローがテーマということで「力強い骨格を持つ人」をイメージされたとのことです。

・タブロイド版『ROBE』issue2パッケージ
   

6.SNS更新
個人のSNSは毎日更新しており、『ROBE』のSNSでは誤った情報を掲載しないように、一語一句の確認も欠かさないようです。写真にも手を抜けない一方で、更新のスピード感も求められます。それでも「本当に好きなものだから拡散したい」という言葉からは、佐藤さんの発信者としての熱意が窺えます。
   

7.『ROBE」以外のWeb記事更新管理
現在はスタイラー株式会社が運営するオウンドメディア『FACY LADY』の管理にも携わっているようです。

   

佐藤さん自身について

物心ついた時からファッションが好きだったという佐藤さん。しかし中高時代の家庭科実習の経験から、「ものづくりの才能はない」と考えていたそうです。その後、大学在学中のフランス旅行でパリという街の素晴らしさに衝撃を受け、直感的に「住みたい」と思った佐藤さんは、留学制度を活用し渡仏。リヨンに滞在します。そこでたまたま調べて興味を持ったパリコレクションに足を伸ばし、「稲妻が走った」と言います。「そこには雑誌のスナップで見ていたモデルが大勢いました。高級ドレスを颯爽と身にまとうその姿、その空間は、なんてラグジュアリーなんだと感じました」。

2シーズンパリコレに行き、1年後に帰国した佐藤さん。帰国後は出版社の短期インターンに参加します。その後、ファッション関連の情報を発信するREADY TO FASHIONの立ち上げに携わり、新卒で入社したアパレル企業で販売員を経験した後、現在のスタイラー株式会社に入社します。「チャンスを掴むために、ずっとやりたいことを言いつづけてきました」と語る佐藤さんですが、その時の自身の感覚を信じ行動を重ねてきたからこそ、その言葉は心に迫ります。

   

仕事に必要な力

様々な経験をされてきた佐藤さんですが、それぞれの仕事の中ではどのような力が求められると考えているのでしょうか。まずイベント取材で必要な力は、「人間力」。情報収集のための人脈作りに必要なことはもちろん、会場の雰囲気、来場者からトレンドを汲み取るためにも欠かせないそうです。人間力を向上させるためには、「同じコミュニティに留まらないこと」。慣れたコミュニティは居心地がいいものの、そこから飛び出すことで知識の幅も広がるとお話しいただきました。

次にショー取材で必要な力は、「機動力」と「計画力」。ショー後の囲み取材は早い者勝ちの場所取りなので、もたもたすることは許されませんし、合間に展示会のスケジュールも組まなければなりません。これらの力を養うためにオススメなのは一人旅とのこと。度胸がつくだけでなく、計画が崩れたときの対応力も養われるとのことです。
そしてパリコレクション取材で必要な力は、「洞察力」と「忍耐力」。現地ではブランド同士の関係性を感じることも必要ですし、アジア系の来場者が多いブランド、ヨーロッパ系の来場者が多いブランドなど、グローバルな分布が見えることもあるようです。また現地でアウェイに感じることがあっても、とにかく堂々としていることが大事とのこと。これらの力を養うためには、「取りあえずパリコレに行ってみること」。佐藤さんは、学生時代から自分でお金を貯めてパリコレクションに行っていたそうですが、実際の行動に勝るものはありません。

最後に、コラムの執筆に必要な力は、「文章力」と「共感力」、そして「鈍感力」。文章力は経験を重ねれば身につきますが、それよりも大切なことは、読み手が共感できる内容を発信できているか。また自分の思いを言語化する際には、世間を気にしないでブレーキを外せる鈍感さも必要だとお話しいただきました。そのために有益なことは「twitterをやること」。ツイートをバズらせるには共感してもらうことが大切ですし、限られた文字数でどれだけ表現できるかの訓練にもなります。また思ったことを素直に書きつつ、誤った情報は発信しないなど、バランス感覚を磨くことにもつながるようです。

   

仕事で大切なこと

「まずは自分が楽しむことが大事」と佐藤さん。「自分が楽しくなければ読者も楽しくない。熱量は必ず文章に表れます。また、着用者の視点を忘れないこと。時には身銭を切って行動することも大切です。そして常に『ROBE』らしさとは何かを問いながら記事を書いています。他の媒体では書けないことを書きたいですし、読者にも疑問を抱かせたい。またこれからも「好き」の共感をポジティブに捉え、発信したいです。そして最後に、自分が楽しむためには、業界全体を盛り上げること。業界が元気じゃないと困るんです」と明るく笑う佐藤さんでした。

   

編集後記

今回の講座では、語り手である佐藤さん自身の魅力もたっぷりと感じられました。そこにいるだけでパッと場が華やぐような明るさがあり、自身の経験から語られる言葉には説得力があり、その存在感が印象的でした。「ジャンルに捉われずファッションを楽しみたい」と語る佐藤さん自身がまさに「越境レディ」。自身のコンセプトを体現し突き進むその姿は、ファッションだけでなく、好きなことに関わる仕事がしたい人全てへのエールとなったのではないでしょうか。

講座終了後、『ROBE』第1号(定価500円)を購入した筆者ですが、紙媒体のファッションメディアの購入は久しぶりだと気付きます。第1号はピンクのセロファンに包まれており、テーマである「your pink?」を早くも体感。セロファンを開いて紙面をあけると、フワッと甘い香りも漂います。座談会に華道家とのコラボ企画、アーティストインタビューなど読み応えもあり、今を生きているからこそ共感できる内容。最近はめっきりWeb媒体での情報収集が中心となっていた筆者ですが、改めて紙という媒体から五感を使って感性を磨くことのワクワク感を感じました。
ジャンレスにファッションを楽しむ「越境レディ」というコンセプトで挑む『ROBE』。専用サイトまたは書店でも購入可能です。興味を持たれた方は、ぜひ手にとって頂きたいと思います。

*文:青木桜子

   
   

Fashion y 018
ファッションを伝える 『ROBE』編集長 佐藤亜都

・開催日時:2018年1月23日(火)19時30分
・会場:エスモードジャポン東京校
・協力:繊研新聞社センケンjob新卒、READY TO FASHION
・登壇者:佐藤亜都(ROBE編集長)

Fashion y 018 詳細はこちら

   

登壇者プロフィール
佐藤亜都(さとう・あづ)
『ROBE』編集長
1992年生まれ。2014年早稲田大学文化構想学部卒業。ファッションテックベンチャー企業で越境レディのためのファッションウェブメディア『ROBE』@robetokyo を立ち上げる。趣味はパリコレへ勝手に行くこと。
ROBE: https://robetokyo.official.ec/
twitter: https://twitter.com/azunne