report

Fashion y 016 ファッションデザイナーの仕事
HATRA 長見佳祐

Fashion yは繊研新聞社センケンjob新卒READY TO FASHIONのご協力をいただいて開催している学生対象の講座です。エスモードジャポン東京校に会場を移した第16回目は、ゲストにHATRAのデザイナー長見佳祐さんをお招きしました。ご自身の経歴やブランドから最新のテクノロジーについてまでご紹介いただき、ファッションデザイナーに限らずクリエーションに関わるすべての人にとって興味深い内容となりました。
   

hatraおよび自身の活動について

ファションデザイナーになりたいと思ったきっかけを尋ねると、「実は明確な動機はない」という回答。「両親が公務員という家庭環境に対する反動なのか、おしゃれに興味があってなんとなく仕事にしたい」と高校2年生頃から思うようになったそうです。その後、エスモードジャポンとパリのエスモードで学び、2010年にHATRAを設立。ブランドのコンセプトは「部屋」。服を最小の部屋と捉え、「どこでも着れるウェアラブルな部屋」を提案しています。会場では、HATRAの服を身につけた学生さんも見受けられました。

・HATRA 2018SS
   

まず初期の代表作として紹介していただいたのは、着られるこたつ「kotatsu parka」。4着のパーカーが組み合わされ、こたつ布団に重ね合わされています。実際に着用したことのある司会の篠崎さんは「年末に紅白を見ているような落ち着き」という感想を述べてましたが、着ることで部屋の居心地の良さをそのまま身にまとうことができます。また4人で着用すると「まるで一つの生物のような不思議な一体感」が生まれるという興味深いお話も。

・kotatsu parka(2014)
   

次に映し出されたのは、2012年に東京都現代美術館で行われた展覧会「Future Beauty 日本ファッションの未来性」展の様子。同展覧会は、30年にわたる日本ファッションの変遷を通覧する展示で、日本ファッションが持つ創造性と、その力強いデザインに潜む文化的背景に焦点を当て、今後の方向性を示唆する若手のファッションデザイナーの作品も併せて紹介したものです。三宅一生、山本耀司、川久保玲などそうそうたるデザイナーの作品が並ぶ中、デビュー間もないながらにhatraのパーカーも展示されました。カジキマグロなどの漁に使われる釣り糸を使用することで、ユニークな造形を再現しています。現在も、フランスのポンピドゥーセンター・メッスでの「ジャパノラマ Japanorama 1970年以降の新しい日本のアート」展などに参加されており、日本のファッションを考える上で必要不可欠なブランドとして注目される存在になっていることが窺えます。

HATRAは、アニメやゲームなどファッション以外の分野をテーマに扱うものが多い点が特徴的です。「ゲームネイティブである自身による身体感覚を重要視している」と言い、ブランドとしても他分野とのコラボレーションに積極的です。

・HATRA 2011AW(「Japanorama」展出展作品、2018)
   

インターンの仕事、ウィメンズ始動について

現在は長見さんとパタンナーの笠井さんのお二人に加え、アルバイトやインターンと共に制作に励まれています。インターンシップの仕事内容について聞いたところ、最初はリサーチ作業が中心になるそうです。リサーチ作業とは、たとえば「90年代のヘルムート・ラング」、「ファスナーの歴史」など、一つのテーマについて細かく調べ、それぞれのアーカイブを作成する作業だそうです。それらのアーカイブは社内で共有され、インターンの学生も参照することが可能なので、学業に活かすことも可能。これを聞いて、HATRAのインターンシップに惹かれた学生も多かったのではないでしょうか。

長年ユニセックスブランドとして活動してきたhatraですが、2018SSからウィメンズラインを始めたことについて問われると、「学生のときに制作していたのは主にウィメンズであり、ユニセックスはむしろ新しい挑戦だった」。また、「今が学生時代の源流とブランドのアイデンティティが自然に融合する時期」と感じたことを理由として挙げていました。

・hatra 2018SS

   

インディペンデントデザイナーに求められるもの

インディペンデントデザイナーの最も大きな特徴として挙げられたのが「自分の上に人がいないこと」でした。それでは、その状況下で必要なスキルとは何でしょうか。長見さんがまず挙げたのは、「タイムコントロールの感覚を持つこと」。具体的には、コレクションの発表日に向けて、同時進行する複数の納期をコントロールするということです。制作するのに2年かかるものもあれば1日でできるものもあり、並行してリサーチも必要です。また外部とのコラボレーションも挟むことで、納期が複雑に重なっていきます。長見さんはこの工程を料理に例え、複数の材料と複数の調理方法を組み合わせ「最終的にひとつの食事体験に仕上げる」と表現していました。

二つ目に挙げたのが、事務的な能力。「メールがすぐ返せる。しっかりとした資料が作れる。誰が入力してもミスしないエクセルが作れる」など、どんな職種にも必要とされる初歩的な内容に思われますが、実際に仕事を始めてみないと気付かない意外な盲点ではないでしょうか。

長見さんがデザイナーとしての自身を語る中で非常に印象的だったのが、「デザイナーになるとは、デザイナーで居続けること」という言葉です。デザイナーになるための勉強の日々は決して楽しいだけの毎日ではありませんし、晴れてデザイナーになることができる人はほんの一握りです。しかし更なる努力が必要なのはデザイナーになってから。その後もデザイナーとしての自分を保つために必要なことは、「服を作る理由」を持ち続けることだと長見さんは言います。学生のうちから意識していくことが大切なのではないでしょうか。

・学生たちに向けて解説するHATRAデザイナー長見さん
・当日は会場からあふれるほど学生たちが集まり、大盛況でした
   

現在の自分に必要なこと

長見さんがご自身にとって今必要だと思うことについて尋ねると、他分野とのコラボレーションが多いHATRAならではの答えが返ってきました。ファッション以外の業界と関わる中で、「外から見て、自分は服飾のプロフェッショナルであり、自分は服飾分野の代表としてプロジェクトに参加することになる」ということを痛感し、「関わりが幅広くなればなるほど、専門性を求められる」と思い知らされたそうです。その経験から、「どんな話が来ても対応できる力量」、「膨大だがある程度の守備範囲」を持つことが現在の課題だと思うに至ったそうです。

また、最近は服をデータ化することに興味があり、3Dの情報や技術について勉強中だそうです。型紙のような2Dデータを使ってPCのソフト内で縫製シュミレーションするソフトなどを例として紹介してくれましたが、この技術は現行のゲームのキャラクターの衣装にも用いられているのだそうです。つまり型紙をグレーディングし数値を調節することで、現実にはいない人、人型ではないものへのフィッティングが可能になるかもしれないということです。

   
   

クリエイターとして

「クリエーションの着想を得るために心がけていることは?」と会場の学生から問われると、長見さん流のTumblr活用方法を明かして下さいました。それは、Tumblrをかなりのハイペースで流し見し、気に入ったものはリブログするだけの単純な作業。これを1日15分で500枚などと決めて、定期的に見るよう心掛けているそうです。

長見さんはこの作業を、「ご飯を食べるような感覚。情報を咀嚼して気持ちを健康にする」と表現され、画像の意味は考えず直感で選ぶことで「自分の無意識をクリエイティブに落とし込む」ために必要な日課となっているそうです。

クリエイターとして必要なこととして「自分の全力を見せるって恥ずかしい。自分も恥を晒しながら発表を続けている。それは学生のうちから変わらないことで、恥ずかしいものを晒していかないと新たな転換は生まれないし、恥を取り繕うモチベーションが生れる。クリエイティブでいるために、常に自分を晒している状態が大事。表現者としてそこだけはリスクを負わないと。」と話してくれました。

作品としての服もですが、リブログを重ねてできたページは、長見さんの自覚している趣味だけではなく意識の外にあるものさえ反映されています。まさに長見さん自身が公衆の面前に「さらけ出される」、「晒されている」状況を作り出していました。

最後に、ご自身の今後の目標として「作り続けること」を掲げ、コレクションとは別に「常に新しいものを探求するラボ」を持って、ものづくりを探求し続けたいと語っていただきました。

・長見さんが運営するtumblr「HOOD mania」:http://hatrangam.tumblr.com/

編集後記

ファッションデザイナー固有の考えに偏り過ぎず、ゼネラルな視点で語られていたのが印象的で、クリエイターのみならず何かのプロフェッショナルになるために必要なお話ばかりでした。

特にコラボレーションにおいて、「関わりが幅広くなればなるほど、専門性を求められる」というお話は、外部から見た長見さんのファッションデザイナーとしての信頼の高さと、スペシャリストであると同時にゼネラリストでもなければならないという非常に難しい課題に対する苦労がうかがえました。長見さんは、「例えば自分よりスニーカーに詳しいグラフィックデザイナーに出くわすこともあり、そういった時にがっかりさせないためにも…」と語っていましたが、アニメゲーム業界の方々からすれば長見さんこそが「自分よりアニメやゲームに詳しいファッションデザイナー」であり、とても刺激を受けていると思います。双方の分野を活性化させる取り組みをこれからも期待しています。

そして今回のトークで何度も登場した「続ける」という言葉。デザイナーであり続ける。自分を晒し続ける。作り続けるなど、一度始めたものを止めずに「続ける」ことの過酷さ。私も今取り組んでいることを「続ける理由」をしっかり持てているか、今一度問い直してみようと思いました。

*文:根木一子

   
   

Fashion y 016
ファッションデザイナーの仕事 HATRA 長見佳祐

・開催日時:2017年11月7日(火)19時30分
・会場:エスモードジャポン東京校
・登壇者:長見佳祐(HATRAデザイナー)

Fashion y 016 詳細はこちら

   

登壇者プロフィール
長見 佳祐(ながみ・けいすけ):
1987年広島生まれ。2009年エスモード・パリを卒業後、2010年にHATRAを東京で設立。
2016年に株式会社波取を設立。
http://hatroid.com/