ファッション・デザインの法的保護 File-02

ファッションにおける「偽物」 ―「Faking It」展レポート

小松隼也(弁護士)

   

1. Faking It

Faking It: Originals, Copies and Counterfeits」というタイトルの展覧会がニューヨークのニューヨーク州立ファッション工科大学美術館で開催されました。同展覧会は、シャネル・スーツのオリジナルとライセンスコピー製品を並べて展示することで幕を開けます。そして、「昨今のファッション業界における最大の議論の対象は、模倣品に対する正規品との識別と著作権法上の保護である」と前置きしたうえで、ブランドが正式に許可を与えた公認のコピー製品と非公認のコピー製品を展示していくことで、その歴史を紐解いていきます。

筆者は、日本で弁護士としてファッション産業に関する業務に携わった後、現在はニューヨークのロースクールでファッションと法律に関する事例を学んでいます。私が履修した「Fashion Law」という授業を担当している教授が同展覧会のアドバイザーをしていることもあり、以下では展覧会の概要ともに、法的観点からの私見を随所に交えてご紹介したいと思います。

・左: シャネル・スーツのライセンスコピー製品(Matlick Zelinka, 1960米) ©2015 The Museum at FIT
・右: 前)シャネルの3ピース・スーツ(1963-64仏) 後)Adolfoの3ピース・スーツ(1972米) ©2015 The Museum at FIT

   

2. ラベルによる識別とコピー製品

ファッション業界に「正規品との識別」という概念が生まれ出したのは、1860年初頭と考えられています。当時、フランスのシャルル・フレデリック・ウォルト(チャールズ・フレデリック・ワース)が、自らが制作したドレスのラベルに署名をすることで、第三者が自分のドレスを真似して作ったドレスとの区別を試みたと言われています。同展覧会では、ウォルトが署名したラベルが付けられたレセプションドレスが展示されていますが、同ドレスは識別力が付与されたことによって、消費者の需要が非常に高まったそうです。そして、ウォルトに続き、他のデザイナーもラベルに署名をすることで第三者が制作したドレスとの識別をしようとしましたが、その後、署名入りのラベル自体がコピーの対象として捉えられてしまい、この頃から、著名デザイナーの信用を不正に利用したコピー製品が作られるようになります。

その後、正規品と模倣品の識別としてのラベルを巡り、ブランドと模倣者の応酬は100年以上にわたって繰り広げられることになります。ブランドは、複雑な刺繍や高級な生地をラベルに使用することで、模倣者が容易に真似することができないような工夫を施します。さらに技術が現代にまで進むと、正規品かどうかをオンライン上で確認することができるQRコードをラベルに印刷したり、ラベルにICチップを組み込むことで模倣品との区別をする対策などが考え出されています。

・左: ハウス・オブ・ワースのアフタヌーン・ドレス(1903仏) ©2015 The Museum at FIT
・右: ハウス・オブ・ワースのラベル(1903仏) ©2015 The Museum at FIT

   

3. ライセンス製品

本展覧会の最大の特徴は、デザイナーやブランドの許可なく販売された模倣品のみではなく、正式に許可を得たうえで制作されたライセンス製品の展示が充実している点にあります。冒頭で紹介した、シャネルの代表的アイコンの一つであるシャネル・スーツですが、ライセンス製品は価格を抑えるために、ステッチが簡素化されていたり、フロントに配置されたポケットの数が4つから2つに省略されています。シャネル以外にも、数多くのブランドが第三者にライセンス製品の販売を認めてきました。その目的としては、自社ブランドの製品をより消費者に身近な量販店などで販売することで、幅広い層に自社のブランドをアピールすることができるというメリットがあります。

本展覧会では、1949年にパリのピエール・バルマンが、ニューヨークの老舗百貨店であるバーグドルフ・グッドマンにライセンスを認めたイブニングドレスが展示されていました。当時、バーグドルフ・グッドマンはバルマンと同様の生地を用いたうえで、正確なフィッティングを提供するために顧客ごとに三度にわたって採寸を行うという徹底ぶりで、数あるライセンス製品の販売者のなかでも最も高品質なドレスを作る店として認識されていたようです。実際に、シルクサテン製のドレスは50年が経過した現在でも高潔な気品を保っており、一見しただけではオリジナルとライセンス製品の差に気付く事はできないように思えました。また、同年代にバレンシアガは大手デパートチェーンのメイシーズにシルクサテンドレスのライセンスを与えていました。こういった国境を超えたライセンスの付与は、現地でドレスを仕立てることができるため、当時の法外な関税を避けるためにも有効に利用されていたそうです。

他方で、ライセンスを付与するということはブランドの信用を第三者に預けることにもなります。ブランドがライセンス製品の品質を適切に管理できていないと、思わぬところでブランドの信頼に傷がつきかねません。クリスチャン・ディオールは、1955年にニューヨークのブティックショップであるミニョン(Mignon)に特定のドレスのライセンスを与えていました。展覧会ではミニョンが製作したディオールのライセンス製品が展示されていましたが、ミニョンのドレスは、コスト削減のために一部のデザインがディオールの許可なく省かれていました。当時、それを知ったディオールは、ブランドの信頼と彼のデザインを保護するために販売差し止めの訴訟を提起しました。ディオールは数多くのライセンス契約を締結する一方で、ブランドの信頼を保つためにライセンス製品の品質の確認を徹底し、基準を満たさないライセンス製品や非公式のコピー製品に関しては、販売を止めさせるための訴訟を年間40件以上提起していたそうです。

上記のようなライセンス製品は長年にわたって販売されてきましたが、昨今の傾向としては、ユニクロやH&Mといったファストファッションによる著名デザイナーのライセンス製品、コラボレーション製品といったものが数多く登場しています。ユニクロとジル・サンダー、H&Mとアレキサンダーワンやメゾン・マルタン・マルジェラとのコラボレーションなどは記憶に新しいところです。著名デザイナーからすれば、ファストファッションとのコラボレーションは、高額なブランド製品に興味がなかった層や若年層に対するアピール効果や、ブランド製品に興味はあるが金銭面で購入には至らなかった層に対して当該ブランドの名を冠した製品を低廉に提供することができるチャンスとしてのメリットがあります。もっとも、他方で、低廉な価格を実現するために、同ブランドの製品が保ってきた質や訴求力は一定程度落とさざるをえないことから、従来の顧客からの反発を招きいれないというリスクとも隣り合わせであり、コラボレーションのタイミングや頻度、その内容や正規ラインとの差別化などが重要になるものと考えられます。

・上: ピエール・バルマンのライセンスコピー製品 左)Orcilia, 1946-47キューバ 右)バーグドルフ・グッドマン カスタムサロン, 1950-52米 ©2015 The Museum at FIT
・下: 左から順に、ジャック・ファットのカクテル・ドレス(1952米)、ジャン・デセの改良品(1950米)、ジャック・ファットのライセンスコピー(1950伊)、クリスチャン・ディオールのライセンスコピー(1951米)、クリスチャン・ディオールのライセンスコピー(1955米) ©2015 The Museum at FIT

   

4. 非正規のコピー製品

本展覧会では1956年に発表されたバレンシアガとジヴァンシィのカクテル・ドレスが展示されていました。彼らは当時、模倣品対策のために個別の顧客とバイヤーのみにコレクションを公開し、プレスに対しては一ヶ月の間、情報を一切公開しなかったそうですが、結果的にオリジナルの製品が市場に並ぶより早くコピー製品が販売されてしまったそうです。そして、インターネットが広く普及した現代においては、オリジナルの新作の発表からコピー製品の販売までの期間は劇的に短縮されました。展覧会では、「2000年にStyle.comが登場し、世界中の誰もが最新のファッション・ショーの最前列へのアクセスを手に入れた反面、模倣者らもコレクションの発表と同時にコピー製品の制作に取りかかることができるようになった。」と紹介されていました。また、模倣品の多くは、その販売主体がどのような者であるかが不明確な場合が多いように思います。

こういった非正規のコピー製品を販売して得られた資金が最終的にどこに流れていくかを考えた事があるでしょうか。昨今、模倣品の売り上げは世界中の取引の5%から7%と考えられており、金額にすると、5000〜6000億円とのことです。このうちの一部は純粋な営利目的として得られたものと考えられますが、他方で武装勢力や悪質な団体などの活動資金として模倣品が大量に作られ世界中で販売されているという報告もあります。消費者の中には、デザインが同じであればより廉価な模倣品でも構わないという層が一定数存在することは間違いありませんが、自分が支払った金銭が、その後どこでどのように利用されているのかということを少しでも考える機会が啓蒙されることで、模倣品の流通の抑制に繋がるように思いました。

・左)バレンシアガのカクテル・ドレス(1956仏) 右)ジヴァンシィのカクテル・ドレス(1956仏) ©2015 The Museum at FIT

   

5. オマージュやパロディ

ライセンス製品、コピー製品の展示を紹介してきましたが、本展覧会ではオマージュやパロディとして制作された衣服も複数展示されていました。イヴ・サンローランが1965年に発表したモンドリアン・ルックは、現代アートをファッションに取り入れた作品として有名ですが、彼はその後もアートを取り入れたデザインを数多く発表しています。当時のサンローランはアートのコンセプトを踏まえ、その表現を一度分解し、デザインとして再構築したうえで衣服としての美しさを生み出した点で高く評価されていますが、そのような傑作は同時に数多くのコピー製品のターゲットにもされてきました。本展覧会では、当時のオリジナルのモンドリアン・ドレスと、そのコピー製品が複数展示されていました。その後も、ファッションとアートの関係性は友好に続いており、最新のコレクションでもアートがモチーフになった作品をいくつか見る事ができます。

その他、モスキーノによるロイ・リキテンスタインの作品を全面にあしらったスーツや、マイク・ビドロによるジャクソン・ポロックのペイントを使用したスーツなども展示されていました。また、アンディ・ウォーホルは、その作品がもっともファッションに取り入れられた作家として、彼の代表作であるマリリン・モンローのペイントが用いられたスーツ、キャンベル缶が全面に印刷された服などが展示されていました。これらの作品に関しては、著作権の訴訟を避けるために事前に作家の承諾を得たものや、アメリカの著作権法上、一定の要件を満たした場合にイメージの利用が合法となる「Fair Use」(フェアユース)という考え方を利用して製作されたものがあり興味を惹きました。

また、パロディとして、イヴ・サンローラン、エルメスやシャネルのロゴをもじったTシャツなども展示されていました。日本の観光地でも至るところでプーマやナイキなどのロゴをもじったTシャツが売られていますが、ニューヨークの観光地でも同じような風景を目にします。この類の製品は法的対応をしたとしても、次から次に作られていき、イタチごっことなってしまうことが最大の問題と考えられます。

・左: イヴ・サンローランのモンドリアン・ドレス(中央 1965仏)とコピー製品(後2体 1966米) ©2015 The Museum at FIT
・中央: モスキーノのリキテンスタイン・スーツ(1991伊) ©2015 The Museum at FIT
・右:「HOMIÉS」ロゴをあしらったブライアン・リッテンバーグの帽子、スエット、パンツ、スニーカー(2014米) ©2015 The Museum at FIT

   

6. 最後に

同展覧会には「Faking It(偽物)」というキャッチーなタイトルが付けられていますが、単に模倣品を展示するのみではなく、ライセンス製品やオマージュ、パロディなどの製品が同時に展示されていることで、ブランドや衣服のデザインとは何かを考えるうえで通常とは違った視点を与えてくれました。

筆者も同展覧会を通じて、ファッションの歴史の横には常にコピーという概念が横たわってきたということを改めて自覚するとともに、インターネットや流通が著しく発展した現代においては、その問題意識は過去と比べ物にならない程大きくなっているということを強く意識しました。法律家という立場からすると、すべての展示が法的問題を抱えており、ライセンス契約やその管理手法、ブランドとファストファッションとの契約内容、オマージュやパロディにおける著作権、商標権との抵触といった日常的に問題となる事項にとどまらず、今後を見据えての新たな法規制の必要性まで意識させられるという点は非常に有意義な機会でした。特にニューヨークでは、ブランドやデザイナー、モデル、研究機関、法律家、政治家が一同に集まり協力しあって、模倣品を規制するための法律を制定しようとする活動が積極的に続けられてきました。日本でもこの点に関する議論や問題提起はすでになされていますが、より活発な議論のために本展覧会のような場が待ち通しいと思います。

   
「Faking It」展: FAKING IT – Originals, Copies and Counterfeits
・場所: ニューヨーク州立ファッション工科大学美術館(The Museum at FIT)
・開催期間: 2014年12月2日〜2015年4月25日
・Webページ: http://exhibitions.fitnyc.edu/faking-it/
   

小松隼也(こまつ・じゅんや)
弁護士
東京写真学園プロカメラマンコース卒業。同志社大学法学部卒業後、長島・大野・常松法律事務所で弁護士として勤務。企業に対する法律アドバイスや訴訟を専門として手掛ける一方で、アーティストやデザイナーといったクリエイターを支援する専門家団体「Arts and Law」に所属。契約交渉や裁判をはじめ、法律の制定や改正に関する政策の提案といった公的活動も行う。2014年からニューヨークの大学院(Fordham Univeristy school of law)に留学し、ファッション、アート、デザインといったクリエィティブフィールドで問題となる法律や最新の裁判例、契約交渉などを研究した後、2016年に帰国。
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