interview 004: sou-mu

きっかけとしての「無」

sou-mu

作りたい服のかたちが、とても明確なブランドである。かといって、強く主張し過ぎるわけでもない。イギリスの芸術大学(University for the Creative Arts)でファッションデザインを学んだsou-muのデザイナー末田正輝さんは、そこでコンセプトの組み立て方を徹底して学んだという。それが現在の、軸がぶれることのない服作りの強みになっている。
帰国後、「sou-mu」というブランドを始めるわけだが、創・装・奏の三つの意味合いをもつ「sou」に、無の「mu」。服のかたちは、まるい。そのかたちの意図と作られ方についてはぜひインタビューを読んでほしいのだが、目指すのは、「無」を提案すること。それは、着るひとの思いや考えを投影できる余白としての、きっかけとしての「無」である。
(収録:2015/3/7, 4/3 *聞き手:菊田琢也)

   

2015-16AW、動的な「雪」を表現する

――まず最初に、2015-16AWシーズンについてお聞かせください。
前シーズンから引き継いで、今シーズンも「雪」をテーマにしているのですが、前シーズンとは対照的にしています。前回が雪の「静」の部分だとすると、今回が「動」のイメージというか。ハッキリとした「雪」を表現したかったので、白い生地はほとんど使わず、加工などで白を入れることで「雪」のイメージにしました。

――初めて、単独での展示会(@Gallery Conceal Shibuya、2015/3/24-29)という形式で発表しましたが、いかがでしたか?
以前から、空間全体を用いた表現をしたいと思っていたので、今回はやりたいような形で展示ができました。服以外でも楽しめる空間というか、インスタレーションに近いような形で、今後も展示はしていきたいと思っています。

   

――雪のような質感の素材が印象的でした。毎回、素材にはこだわりを持っているようですが、今回特に意識した点はありますか?
基本的にはいつも、触った時に柔らかくて気持ちの良い、優しいイメージの素材を選んで使っています。加えて今回は、少し起毛していたり、少し光沢があったり、雪を連想させるような素材選びをしました。

――写真集を作成していましたが、その狙いや、表現したかったことなどについてお聞かせください。
一つの大きな世界のなかに服があるようなイメージというか、最初の写真から最後の写真までを含めて全体で表現したいと思って作った本です。撮影の段階からグラフィックを担当してもらっているへきち(*註1)さんも交えて、一冊の本を作る事を見据えて撮影に臨みました。どうしてもルックの写真だけでは伝えきれない部分があるので、いつもはセレクトしないような服以外の何気ない写真なども本には含まれています。

*註1 へきち: 田渕正敏(イラストレーター)と松田洋和(グラフィックデザイナー)によるアート/デザイン/印刷/造本の活動。
へきち Website: http://hekichi.info

   

何もないものを提案できていたら、着る人それぞれの考えを投影できる

――sou-muは、「無」をコンセプトに据えていますが、どのような思いを込めているのですか?
哲学などが好きで普段調べていたりするのですが、ブランドを作るときに良い題材ないかなと考えていて、それで「無」に行き着きました。ここは自分でもよくわかっていないところで…。「空白」というか、何もなかったら、そこに自分なりの考えを当てはめられるじゃないですか。そういう何かのきっかけになるものを作りたいなと、ずっと思っていて。もともと、いろんな着方が出来る服というのが好きで、そこから「無」になったのかもしれないですね。

――最初に僕が見たsou-muの服が、まさにいろんな着方ができるというものでした。上下左右のない、かたちの定まっていない服というか。
それは完全にコンセプトを忠実に表現した服です。着る人自身が着方や見え方を考えて、「着る」という行為に対して考えるきっかけを与えられたらと思って、あのような服を作りました。

――着方が一つに定められていなかったら、どうやって着ようかなって考えますもんね。
押し付けるようなデザインというのがあまり好きではなくて、強く主張し過ぎると、人を選ぶというわけではないですが、服自体で完結してしまい、そこからは何も発展しないというか。何もないものを提案できていたら、着る人それぞれの考えを投影できるというのもあって、見たり着たりしたときに何かしら自分で考えると思うんです。自分で作り上げる楽しさみたいなのも作り出せるかなと。

――押し付けないデザインという表現は素敵ですね。
デザイン的には、体型をなるべく選ばないようにしたりとか、空間を作るようなかたちにしたりとかですかね。なるべくシンプルにしようと思いながら作ってはいます。柄は一見何かわからないような柄を作って、見た人に何の柄なのかを考えてもらうようにしたりだとか。

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・「ばらす つなぐ まとう」(2012)
   

――「○(まる)」がかたちの基本になっていますが、「○」に行き着いたのは?
最初の服は「○」ではなかったんです。いろんな着方が出来る服というのがまずあって。3WAYに着られたりとか、ボタンの留め方でいろんな着方ができたりとか。いろんな着方が出来る服のかたちを突き詰めた結果、どこから見ても同じ形で上下左右の区別がないという所で「○」という形に行き着きました。コンセプトから行き着いたかたちです。

――sou-muの「sou」には、「創」「装」「奏」という三つの意味が設定されていますが、三つの関係はどのようなものですか?
「無」というのを創ったり、奏でたり、装うという意味ですが、限定的な意味にはそれほどしていません。「無」をこういうふうに着てくださいという意味に近いですね。
「創る」というのは自分でいろんな着方を試しながら着られる服という考え方で、「装う」はそのときのテーマを当てはめて着られる服という意味合いです。例えば、2014-15AWは、「空」がテーマでしたが、それを服に落とし込んで着られるといったような感じで。「奏でる」というのは、たたむと「○」になる服があるんですが、そういう作り方が好きで、たたんで「○」になって、ひらくと普通の服になるという作り方をしていて、それを「奏でる」というかたちに当てはめていったと。
まず最初に、いくつかの意味を持った言葉を設定したいなというのがあって、それで「sou」というのを決めたんですけど、そこから自然と三つになっていきました。

――着る人に何らかのきっかけを与えられる服を作っていきたいということですか?
僕は服を着て楽しかったらいいんじゃないかなというのがあって、いろんな着方ができるというのも、自分で考えるのって楽しいと思うんですよ、どう着るのか考えることって。考えるきっかけになるものを提案したいというのがあります。ただのまるい服があったら、見た人は何かしら考えると思うんですよね、こういう着方をするのかなって。ただのシャツがあっても、何も思わないというわけではないですが、ああ洋服があるなという感じで。それとは別の、その人の内面を変えるようなことができるんじゃないかなと。

――ファッション業界側が押し付けるようなシステムがこれまでずっとあって、消費者側がとくに不思議に思うことなく提示された通りに受け入れている部分があるのではと思います。ここ袖があるから通すんでしょ、みたいな。そこに考える余白が出てきたら、また変わってくるのかなと。
そうですね、きっと今まで服に興味が無かった人も楽しく着てもらえるようになると思うんです。考えるうちに服自体に興味が出てきて、着る喜びみたいなのを感じられると思いますし。着るってなんだろうって考えると思うんですよね。

   

グラフィックから展開する服作り

――へきちさんが手掛けている印刷物についてお聞きしたいのですが。
毎シーズンのコレクションを作るとき、へきちさんにテーマを投げて返ってきたグラフィックを受けて作るんですよ。例えば、2014-15AWでは「空」というテーマをまずへきちさんに投げて、三つの「○」をデザインしてもらいます。そのイメージから洋服を作っていくという流れです。へきちさんにはブランドのイメージ作りから関わってもらっていますね。

――まずグラフィックを外注して、そこから服作りを展開させていくという方法は面白いですね。
服の色などもそこから決めていったりするので、ぶれないで作れるかなと思っています。今回(2015-16AW)も同じようなやり方で作っています。一応のテーマとしての言葉はあるのですが、それを前面に出すというより、へきちさんが上げてくれる三つの「○」が毎回のシーズンのテーマとなっています。イラスト自体がテーマになっているというのが前提にあります。ちなみに、2014年シーズンのテーマは、言葉では「雪」でした。一年間通して同じテーマでやると決めています。春夏と秋冬で表現できることって、だいぶ違ってくると思っていて。

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・2015-16AW
   

――テーマ自体も、空とか雪といったかたちの定まらないものを設定しているのですか?
そうですね。大きなテーマとしては、ずっと「空」でやっています。「空」を一つの基準に位置付けていて、そこに関わってくるものを選んでいくかたちです。

――2015SSシーズンでは「雪」をどのように表現しましたか?
儚さを追求したコレクションです。「雪」をテーマに選んだときに思いついたのが、儚いイメージだったんですよ。雪って基本的に白で、現象だけでかたちが変わるじゃないですか、その感じを表現したかったというか。
例えば、シャツにわかりづらい柄をあえて使ったりしています。へきちさんに雪が積もっているイメージや、穏やかに降っているようなイメージでデザインしてもらったのですが、ちょっとエンボスで柄が入っていると、近付いて見ないとわからない。肌触りも雪っぽくしてみたりとか。かたちとしては、毎回あまり変えようとは思っていなくて、基本的には生地やテキスタイル、加工とかで表現しています。
主張しないようにコンセプトを表現したいなというのがすごくあって、実際に見ないとわからないぐらいのもので表現したいというのがあったんです。2014-15AWのときはもう少しわかりやすくコンセプトを表現していたのですが、それを反対にわかりづらく表現しようと思いました。

・2015SS
   

――へきちさんのグラフィックをプリントしているとのことでしたが、シャツのどこに配置されるのか、というのが難しいところではありませんか?
そこは一切考えないで作っています。毎回上下左右の区別がない抽象的な一枚の大きな絵から切り出して作っていて、一点一点若干柄が違うようになっています。

――それはブランドコンセプトにも合っている考え方ですね、計算されていないというか。
もちろん配置して作ることもできるんですけど、同じ柄を使用した同じシャツでも違いがあるというのも面白いと思っていて。

――毎シーズン、ルック写真はメンズとレディスで二体並べていますが、男性、女性というのは意識しないで作っているんですか?
着る人を選びたくないというのがあって。性別、年齢も問わずどっちも着られるというのを提案したくて、男性と女性モデルを使っています。あと、カップルや友達同士でシェアして着てくれるお客さんが多くて、色違いで買っていってくれるというのがよくあるんです。そういう人たちに対して提案したいというのがあります。

――2015SSの展示会にお伺いした際に見かけましたよ、そういうカップル。
そういう人たちがけっこういて。あれはあれでひとつのきっかけになっているので、すごく嬉しいなというのはあります。なかなか出来ないじゃないですか、男女のペアで着るというのって。そういうのができるのはいいかなって思っています。

   

服以外のものを掘り下げて見てほしい

――いま、末田さんと同年代のデザイナーが続々と出てきていますよね。特徴として、インディペンデントな立ち位置から発信している人たちが多いと感じています。
それはネットの影響が大きいと思います。個人で発信しやすくなったというか。

――デザイナーたちの横のつながりも強いですよね。それもSNSの影響が大きいのでしょうか。
それと、ファッションエディターの西谷真理子さんが講師を務めていた編集学校スーパースクールのようなファッションを学ぶ場がいろいろと出てきて、それでつながりができた人たちが多いかもしれません。ここのがっこうやドリフターズ・インターナショナルとかもその頃からですしね。

――ファストファッションのようなあり方がある一方で、インディペンデントなブランドがこつこつと服を作り続ける現状があって、そういう人たちにしか作れない服というのがあると思います。
情報を個人で発信しやすくなったので、デザイナーの考えを知った上で買える機会が増えていっているのだと思います。裏にある背景も含めて服を買えるようになったというか。アパレルブランドってそういうの見えにくいじゃないですか。20代前半のデザイナーさんも知り合いに何人かいて、彼らはtwitterで情報を発信して、ファンを集めていて。そういう個人ブランドみたいな感じでやっているところが多くなっているイメージがありますね。やはりtwitterの影響は大きいのかもしれませんね。

――無理に大きく広げようとしていない感じはしますね、自分たちでコントロールできる範囲で服作りをしているというか。最後に、今後目指していきたいことなどについて教えてください。
僕はコズミックワンダーとかミナ・ペルホネンが好きで、彼らのような立ち位置は素敵だなと思っています。服以外の展示もしていたり、色々な所へ向けて発信しているというか。
もともと、服っぽい服は作りたくないというのはあって、もっと、服以外のものを掘り下げて見てほしいなというのはあります。服として買うのはもちろん良いのですが、そこからもっと発展してくれたら嬉しいです。先ほど言った服をシェアするというのもそうですし、へきちさんの柄をきっかけにイラストやグラフィックの分野に興味を持ってもらったり。きっかけとして考えてくれたらいいなというか、そういうのになったら一番嬉しいなというのはありますね。

今後やりたいこととしては、服ばかりではなく、他のことにも力を入れていきたいというのがあります。もともとプロダクトに興味があって、そこからファッションに入ったというのがあるので。大学生の頃に、最初に影響を受けたのがファッションブランドではなくてオランダのdroog design(ドローグデザイン)というインテリア集団なんです。ちょっと面白い家具とかプロダクトを作っているところで。そういうのもあって、どちらかというとプロダクトよりにしたいというか、それはずっと思っていますね。アクセサリーもそうですけど、インテリアもやりたいなとは思っています。いろんなものを作って、それでsou-muの世界観が形作れたら良いなと。

   

末田 正輝(すえだ・まさき):
1987年、千葉県生まれ。2006年から4年間、イギリスのUCA芸術大学(University for the Creative Arts)にてファッションデザインを学ぶ。2010年に帰国後、sou-muのデザイナーとして活動を始める。
http://www.sou-mu.com
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