interview 010: PLASTICTOKYO

東京らしさの標榜

PLASTIC TOKYO

80年代東京を象徴するニュー・ウェーヴ・バンドの歌詞から名付けられたPLASTICTOKYO(プラスチックトーキョー)は、その名が示す通り、東京らしさを標榜する。例えば、2016-17AWのテーマは、「渋谷のスクランブル交差点」。「無秩序なようで秩序がある空間というのが、東京を象徴している」と、デザイナーの今崎契助さんは説明する。また、東京ファッションウィークの主要会場が渋谷ヒカリエであることを踏まえての設定でもあるという。2020年の東京オリンピック開催を控え、急速に再変しつつある渋谷の街並みを背景に、次世代のデザイナーは何を描き出そうとしているのだろうか。
(収録:2016/04/04 *聞き手:菊田琢也)

   

表層と深層という二つのレイヤー

――先日の東京コレクションを振り返る会で、「表層」と「深層」という二つのレイヤーを設定してコレクションを作っているという話をされていたのが興味深かったです。
文化服装学院やBFGU(文化ファッション大学院大学)に通っていた頃は、柄などを一切使わずに、例えばシーム一つ一つに意味を持たせるような作り方をしていました。でも、服に何か意味を持たせれば持たせるほど重くなってしまい、そうしたものはお客さんに伝わりにくい。伝わったとしても重い印象しか与えない。そういったところですごく思い悩んだ時期があって、それで現在は、難しいことはあまり表面には出さずに、明快なテーマを立てるかたちを取っています。
ただ、それだけだと自分の中でデザインの道標がなくなってしまうので、深層というかたちでもう一つのレイヤーを設定し、そこで自分が表現したいものをストーリー立てて組み立てる。その上でみんなに共感してもらえるようなテーマに落とし込むということをやっています。

――それで、今シーズンはテロや震災について深層の部分で言及しているとのことでした。
ファッションを表現する上で、今の世相を取り入れたものでなくてはいけないというのが自分の中にあって、今シーズンで言えば、フランスの同時多発テロというのがとても大きかったので、やはり避けては通れないなと。伝わってもいいし、伝わらなくてもいいと思いながらやってはいます。

――メインのテーマになっている「渋谷のスクランブル交差点」は、とても優れた視点だと思いました。というのは、現在の「東京」を複層的に象徴している場所だと思うからです。例えば、ハロウィンなどの際に若者たちが集う祝祭の場である一方で、街頭演説やデモ活動が頻繁に行われる政治的な場にもなっている。また、外国からの観光客が訪れる観光スポット、言わば「THE TOKYO」的な場としても注目されています。
無秩序なようで秩序がある空間というのが、東京を象徴しているように思い、今回のテーマにしました。また、宮沢章夫という劇作家が言っていますが、かつては新宿がそういう場だったのが、80年代に渋谷に移り、今はスクランブル交差点が祝祭の場になっている。今の日本のユースカルチャーの中心はやはりあそこかなと。

・PLASTICTOKYO 2016-17AW
   

――前回は「夏フェス」がテーマだったじゃないですか。どちらも、群衆の装いをテーマにしているのかなと思いました。
自分が作ったもので日本の風景や価値観が変わったらいいなと思いながら、洋服を作っています。ショーとかですと舞台装置まで含めてデザインできるので、そうした点から群集的なものがテーマになってきているのかもしれません。

――交差点で人々がすれ違っていく光景のように、モデルが歩いている前を別のモデルが横切っていく演出が面白かったです。服を見立てるポイントの一つに、すれ違う一瞬の表情というのがあると思うのですが、それがショーの中でうまく表現されていたなと。
伝えたいことの全てを服の中で表現してしまうとトゥーマッチなデザインになってしまうので、ショー形式で発表する際には、演出や舞台の照明、モデルの歩き方など分散して表現したいと思っています。今回はそれがうまくできていたので、良かったと思っています。
今回、すれ違う演出や動きというのを念頭に置きながらデザインしていったので、ひらひら揺れるリボンなどを意図的にディテールに用いたりしました。

――前回との大きな相違点として感じたのは、まずモデルに関してです。前回は、国籍や背丈も全く異なる男女のモデルが登場しましたが、今回は似通ったメンズモデルのみを並べていました。
前回は、自己紹介という意味合いも込めて、柄やノールールなデザインといったプラスチックトーキョーらしいイメージをそのまま表現しました。2回目にあたる今回は、それとは真逆なことをやるというのが当初から念頭にあったんです。また、テーマにも関連するんですが、「無個性」を表現したかったので、モデルの個性をできるだけ抑えるという狙いがありました。

――二つ目として、今回はグラフィックよりも素材や造形への訴求を感じました。先ほどおっしゃったリボンもそうですが、デニムの端をフリンジにしてみたりとか。また、先シーズンはポリエステル素材が中心だったのに対し、今回は多様な素材の生地を組み合わせながら使っていました。
これも先ほどの話と関連するのですが、前回は柄を中心に見せたので、その真逆の部分でプラスチックトーキョーの新たな価値観を表現できたらというのがあります。プラスチックトーキョーはこれまで、グラフィックのブランドというか若者向けのブランドと捉えられていた部分がありましたが、大人のお客さんやお店にもっと訴求できるようなブランドにしていきたい。それで今回、柄以外のところを強く押し出した部分があります。好評だったので、今後も強く打ち出していきたいと思っています。

・PLASTICTOKYO 2016SS
・PLASTICTOKYO 2016-17AW
   

――スタイリストは前回と一緒でしょうか。
はい、TEPPEIというスタイリストです。彼とはルック写真のみで発表していた頃からずっと一緒にやっています。僕と同い年で、同じようなカルチャーを通ってきているので、僕がやりたいことを汲み取ってくれるし、それ以上のことも提案してくれる。今回、演出家も若い人で、僕たちより少し上のストリートブランドやメンズブランドのように、同年代で新しい波を起こせたらと思っています。

――これまで、どのようなファッションやカルチャーを体験してきましたか。
僕が19、20歳の頃は、いろんな洋服をミックスするような文化が原宿を中心にありました。それこそハイブランドと古着、メンズとレディースをごちゃごちゃにミックスするみたいな。自分もそういう格好をしていたというのもあるのですが、僕らの世代というのはミックス感覚が長けている世代なのかなと思っています。それから、ビューティービーストや20471120といったドメスティックブランドに興味がありましたね。これどうやって着るんだろうみたいな服がいいなと思って育ったので、そこら辺にも影響を受けているかもしれません。
僕は出身が京都なのですが、京都は秩序正しいというか比較的整理された街なんです。これ以上の高さの建物はダメとか派手な色を使ってはダメとか条例にあったりして。それで、18歳で文化服装学院に入学するために上京した際に、新宿のごちゃごちゃした感じが新鮮に感じたんです。その時の感覚を大事にしていきたいと思っていて、プラスチックトーキョーという名前をブランド名に付けたところがあったりします。「東京らしさ」というのは毎回テーマに入れたいと思っています。

・PLASTICTOKYO 2016-17AW
   

   

「プラスチックトーキョー」が意味するところ

――ここからは、東京のファッションやカルチャー、都市性をどう捉えていらっしゃるのかお聞きしていきたいのですが、まず最初に、「プラスチックトーキョー」というブランド名を付けた理由についてもう少しお聞かせください。プラスチックというのは熱を加えれば自由に変形し、いろんなものに順応する特性を持っている。その一方で、「まがい物」的な意味合いもあります。そうした「プラスチック」という語を東京の前に冠しているのが面白いと思いました。
プラスチックスの「デジタル・ウオッチ」(1980)という曲に、「ニューファッション、パリ。ニューウェーヴ、ロンドン」という感じで都市のイメージを羅列していく箇所があるんですが、その中に「プラスチック、トーキョー」というフレーズが出てくるんです。その曲を聴いた時に、すごい引っかかって、そこから名付けました。
「プラスチックトーキョー」という表現が、80年代を象徴するイメージだと思ったんです。80年代は、クールなものを軽薄な感じを持ちながら表現する部分がある。それが僕の表現したいものとつながる気がして。それから、海外に出て行きたいという思いもあったので、覚えやすい名前を付けたというのもあります。

――岡崎京子のマンガにも80年代の東京を「プラスチック」と形容するセリフがありますよね。プラスチックトーキョーのブランドサイトの一番下にある「INTRACRANIAL STORAGE(頭蓋内貯蔵)」の中で、80年代のニュー・ウェーヴ系バンドをいっぱい紹介されていましたが、80年代がお好きなのですか。
はい、好きです。シニカルな表現がすごく好きなので、ニュー・ウェーヴのノールール的なところに惹かれます。僕は18歳まで京都で育ったので、ダウンタウンなどの笑いを見ながら育ったところがあって、そういうちょっと抜いた感じとかシニカルな目線というのは根底にあるのかもしれません。

――先ほど「クールなものを軽薄な感じを持ちながら表現する」とおっしゃっていましたが、ダウンタウンやYMOの方法論にも、シニカルなものとコミカルなものを重ねて見せていくというのがありますよね。
それでいて、着地はしっかりとかっこいいところが優れたところですよね。

――YMOはいろんなものをサンプリングしながら、着地点としてクールなテクノポップに仕上げている。それでいて、初期の頃は打ち込みではなくて人力で演奏するという極めて身体的なパフォーマンスが面白い。一見すると汗一つかかずに淡々と演奏しているようにしか見えないのですが。

しかも、パッケージングで東洋思想やアジアを表現していて、それもクールだと思います。

――「テクノポリス」のミュージックビデオで、東京の風景をカットアップして見せていく箇所があるのですが、まさに表層的な「トーキョー」ですよね。80年代の文化的な態度に、表層的な部分で戯れながらシラけるというのがあります。
うまくパッケージングしていたんだろうなと思います。80年代は「何かあったようで、何もなかった」みたいなことを皆さん言うんですけど、その感じがいいんですよね。

・順に、PLASTICTOKYO 2015-16AW, 2015SS, 2014-15AW
   

――プラスチックトーキョーは、初期の頃から東京の都市性をテーマにされています。
1stシーズンは「東京観光」をテーマにしていて、ストリートウェアやヒップホップっぽい着こなしに落とし込んでいます。ヒップホップカルチャーには生まれた土地をレペゼンするノリがあるので、東京をレペゼンするというのが感覚的に面白いなと思いまして。

――また、マンガなどのポップカルチャーへの接続がある一方で、石原元都知事といった政治的なモチーフを取り上げていたりと、振り幅が面白いなと思いました。
一つのイメージに縛られたくないという気持ちがあります。ポップ一辺倒なイメージも嫌だし、シリアス過ぎるのも嫌だしというところで模索しながら進んできましたね。マンガをテーマにしたものはBFGUの卒業制作の作品で、セレクトショップのCandyが販売しませんかと声をかけてくれました。それから、後者は政治的な思想を分かりやすく服に取り入れていた時期のものですが、当時話題になっていた偏向報道を糾弾したものです。その時の展示会で、ある人から「何でそんな怒ってるの?」と言われたことがあって、冒頭で話したような、何か違うなと思うきっかけになったものだったりします。

・順に、1, 2枚目、PLASTICTOKYO 2013SS 3, 4枚目、PAST WORKS (2008~2011)
   

――アメリカのオープニングセレモニーを筆頭に、中国や韓国のショップなど、海外の取引先が比較的初期の頃から付いていますが、海外の方たちは、プラスチックトーキョーのどの辺りに「東京らしさ」を見出していると思いますか。
ロンドンのメンズと比較されることがたまにあるのですが、そことは違う文脈の派手さがあるんだと思います。ファッションと関係ない文化を盛んに取り入れていこうとする感覚が面白がってくれているのかもしれません。かと言って、アニメカルチャーに寄せていかずというか、まだ価値付けされていないような部分を服で柔軟に表現できたらと思っています。

――現在の東京の若者たちのファッションをどのように捉えていらっしゃいますか。
僕の世代ギリギリまでは、自己表現が服しかなかったというような世代だと思います。今は、服である必要がないのかなという感覚があります。僕らの頃だと、私服を見せることだけが表現手段で、それ以外の、例えば部屋の中などを見せることはできなかったのですが、今は、SNSを使っておしゃれなインテリアだとか、おしゃれな自転車だとかを見せることができる。ライフスタイルがおしゃれであれば、服は普通でもいいというようなそんな時代だと思うので、ファッションが自己表現ツールの多くのうちの一つになっているのではと。そういう意味では、服しかなかった世代としては、ファッションを復権したいという気持ちがあります。

――今後の方向性や活動は?
東京コレクションに参加する中で知名度を上げていって、海外でのビジネスをさらに広めていきたいと思っています。もしできるなら、最終日の最後にヒカリエホールAでショーをやれるようになりたいです。それができたら、東京を代表するブランドになれるのかなという感覚はあるので、そこは目標かもしれません。今シーズンは中核を担っていたブランドがたくさん抜けたじゃないですか。それで、期待値も込めて評価してくれてるとは思うんですけど、そこはチャンスだと捉えて、抜けた枠に飛び込んでいけたらと思います。同じことをなぞっても仕方ないので、新たな価値観を提示出来たらと。

――まずは東京を代表するブランドになるというのが目標で?
はい、そうですね。

・PLASTICTOKYO 2016-17AW
   

今崎契助(いまざき・けいすけ):
PLASTICTOKYOデザイナー。
1983年京都生まれ。文化ファッション大学院大学卒業後、アパレル会社勤務。
2013年春夏より本格的にブランド活動を始動。
http://plastictokyo.jp
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