interview 001-1: malamute

女性の両面性を編む

malamute

ニットに特化した服作りを展開するマラミュートは、編むことを通じて、女性の両面性を表現する。強さとやわらかさをあわせもつ女性。その服作りは、デザイナー小高真理さんの個人的な思い出によるところが大きいのだが、何だか懐かしい気持ちにさせられるから不思議だ。
例えば、フェイラー社のバラ柄タオルから着想を得たニット。それは色とりどりの、6色の糸で編まれていて、絨毯のような肌触りがする。幼ない頃に使っていたタオル、おばあちゃんの家に敷かれていた絨毯、そうしたものの感触が思い出されてくすぐったい。このニットはどのような経緯から作られたのだろう。

マラミュートのニットの魅力について、昨年6月に収録したロングインタビューと、2015SSコレクションについて伺った最新コメントの二つを通じて紐解く。
(収録:2014/6/11 *聞き手:菊田琢也)

   

ニットによる表現との出会い

――文化女子大学(現・文化学園大学)に進学された経緯からお聞かせください。
ファッション系の雑誌をよく読んでいたんです。『ジッパー』(祥伝社)や『キューティー』(宝島社)、『セブンティーン』(集英社)といった雑誌を中学生の頃から読んでいて、その他には『ノンノ』(集英社)や『ミーナ』(主婦の友社)などジャンルを問わず雑誌をたくさん読んでいました。その頃は編集者になりたいなと思っていたんです。雑誌を作るひとになりたいなと思っていて。いろんな本を読んでいくうちに、編集者になるには服づくりやパターンについても知らないと駄目だということがわかってきました。高校卒業後は大学進学ということを前提に進めていたので、大学で一番服作りの基本が学べるところはどこかと調べ、文化女子大学に進学することに決めました。

――服装造形学科に入られたのですよね。大学で学んでいるうちに、服を作りたいという気持ちが次第に強くなっていったということですか?
そうですね。文化女子大学は課題を教科書に沿って服を作らないといけなかったんです。教科書に沿って制作して、行程ごとに先生のチェックがあってという感じで。そのなかで、自分ならここにギャザーを寄せたいのにとか、フリルを付けたいのにと思うことが増えてきて、デザインの方が面白いのかなと思ってきました。私がいた頃は、三年に進学するときにクリエイティブコースか造形コースかを選択できたので、造形コースに行くことにしました。もう少しきちんと作れるようになりたいという理由で。造形コースは三、四年次にコートやドレスも制作するので、一通り学べるなと。それで造形コースに行って、そのときにBFGU(文化ファッション大学大学院)の修了制作ショーを観る機会があって、私も行きたいなと思いました。

――ちょうど創設された頃ですよね? それでBFGUに進学するわけですが。
はい、私が観たショーは一期生のもので、私は四期生にあたります。大学を卒業して、BFGUのクリエイション専攻のデザインコースに進学しました。それと同時に、ここのがっこうにも通っていました。大学四年生の頃に友だちが通っていて、友だちは紙とか発砲スチロールを使って、服の制作をしていたんです。それで、「服を布で作っていない学校」というか面白いことをやっているなと感じていました。

その頃に、山懸良和さんがやっているリトゥンアフターワーズ(writtenafterwards)の「0点」(2009-10AW)をテーマにしたコレクションを観に行く機会があって、すごく感銘を受けました。そのときに、かわいいと思ったバレエシューズがあるのですが、それは丁寧にアルミホイルで作られたもので、こういうコレクションもあるのだなと思いました。それで、ここのがっこうのプライマリー・コースに入学することにしたんです。ここのがっこうでは自分探しをして、BFGUでデザインを学んでといった感じです。

――文化は服作りのスタンダードをきっちりと教える学校ですよね。そうしたところで基礎を学ぶ一方で、ここのがっこうのような、従来の枠組みに捕われない服作りに対しても魅力を感じていったということでしょうか?
そうなるんですかね。(ここのがっこうは)服を布で作っていないんだというのが一番衝撃的でした。それから、美大や一般の四大に通っている人などもいて、ファッションではないものを取り入れられた場所でもありますね。

――BFGUではどのような制作をしていたのですか?
BFGUはホールガーメントなどの島精機の機械を所有しているのですが、ニットでオリジナルテキスタイルから服を作っている先輩たちの作品を見ていました。堅い糸で編んだり、ニットで大きなシルエットを作ったり、ニットはテクスチャーから考え提案していけるんですよ。これまではテキスタイルを作るというよりも、買ってきた布で造形を作っていたので、面白いと思い、ニットCADに興味を持ちました。

一年次にニットのカーディガンを制作したのですが、評判が良く、もっとニットを作りたいなと思いました。二年次の修了制作は、すべてホールガーメントで編んだものでコレクション展開しました。「とける(melting)」というのがテーマで、服の形がとけていく不安定な様子を表現しました。

――この頃から既に立体的な造形を作ろうという意識があるんですね。
そうですね、それが面白いなと。立体を出す編み方はけっこう応用が効くんです。でも、この頃は色のことを全然意識していなくて、全部同じ色で作っていました。色を意識し始めたのはBFGUを修了してからですね。ニットのOEMの会社に就職して、そこでミキオサカベ(MIKIO SAKABE)やジェニーファックス(Jenny Fax)のニット企画に携わり、2012-13AWシーズンの愛☆まどんなさんの絵が描いてあるジャカード・ニットなどを制作しました。

   

女性の持つ両面性をニットで表現したい

――ご自身のブランドを始めるのは、2014-15AWシーズンからですか?
本格的に始めたのは2014-15AWからですが、その前に、changefashionの滝田雅樹さんが企画した催事(Hoop、2012大阪)でマフラーを何点か作ったのが最初ですね。糸で模様を描くような感じで編んでいった少し民族調のマフラーです。そのときはレディース、メンズとは決めずに、誰でも身につけられるようなものを作っていました。

――「マラミュート」というブランド名の由来は?
犬の種類です。三歳か四歳の頃に犬の図鑑を買ってもらったことがあって、その本にマラミュートが載っていたんです。何となく音の響きで名前を覚えていて。ブランド名を決めるときに思い出して、言葉の響きで付けました。

――「バラード・バイ・マラミュート」はハンドラインですよね。
そうです。手編みでしかできないことをやりたいなというのがあって。かぎ針の手法を所々に入れたりとか、オリジナルの糸を混ぜてみたりとか、自分の感覚で編んでいけるようなラインです。

――ニットに特化した服作りをされていますが、着心地については意識されていますか?
ニットなので特に着心地は意識しています。布帛との差別化を図るという意味でも。あと着ていてもだらっとしないよう、伸縮を意識しています。重くないニットを心がけています。

――ブランド・コンセプト(「強さとやわらかさをあわせもつ女性」)はどのようなお考えから設定したものですか?
女性のための服を作りたいと考えました。私の周りにいる女性たちはみんな両面性があり、美しいなと感じています。女性の持つ両面性をニットで表現したいと思っています。

   

幼い頃に感じた女性像、大人になってから感じた女性像

――2014-15AWシーズンのテーマは「She’s A Woman」ですが、これはビートルズの曲名から?
そうです、あまり関係がないんですけど(笑)。「女性(woman)」というのをテーマにしたくて。

――まさに「女性(woman)」というのが2014-15AWシーズンのキーワードだと思うのですが、表現したかった女性像について具体的にお聞かせください。
小さい頃、母や祖母が使っていたフェイラー社のハンカチに違和感というか居心地の悪さを感じていたんです。大人の女性ってちょっと怖いというか。昼ドラでやっているような感じの女性像ってありますよね、何かそういうのと通じるような気がしていたんです。でも、自分が大人になってみて、そういうのだけじゃないって思ったんですね。ブランド・コンセプトにもあるように、強さとやわらかさの両面性を持っている女性というのが、私は一番かっこいいなと思っているのですが、大人になってみてこのハンカチにもそういうものを感じ始めたんです。子どもの頃は、ただ怖い魔性の人というイメージだけだったんですけど。

――なるほど。昨今の流れの一つとして、「ガーリー(少女らしさ)」への注目がありますが、そうではない部分を捉え直そうとしているのが面白いなと思ったでんす。少女が成長して大人になっていく過程というか、その過程で次第に見えてきた女性の魅力を、ご自身の記憶から捉え直す作業というか。
そうなのかもしれません。年齢層は20代後半から30代の女性をターゲットにしているので、少女というよりは女性をテーマにしています。今回も祖母と母をイメージソースにしていますので、保護者参観に行くような女性のイメージです。そのときだけお母さんはよそ行きの服を着ているし、口紅の色も目立ったりして(笑)

――ご自身の体験によるところが大きんですね。『装苑』の記事(2014年6月号)で「幼い頃に感じた緊張感を立体的に表現している」と説明されていましたが、その辺りについて少しお聞かせください。
フェイラー社のハンカチに描かれているものが、幼い頃は花だと気付かなかったんです。ただ点々と模様が描いてあるとしか。それが、次第にお花なんだ、バラなんだと気付き始めて。そうした気付いたときの驚きというか、次第に浮き立って見えてくる感じを、立体的に編むことで表現してみました。このマフラー(*画像1)は、「スズランストール」という名前ですが、だんだん浮かび上がってくるイメージを編み方で表現しています。

――「スズラン」なのには何か意味があるのですか?
スズランの花は、下を向いている、普通の花は上を向いているのに、スズランや水仙は垂れ下がっているので、こぼれ落ちそうなイメージがあって、その不安定な感じをストールで表現しようと付けた名前です。

――他のアイテムにもそれぞれ意味が込められているのですか?例えば、これ(*画像2)とかは?
マーガレットとミヤコワスレなのですが、どちらも実家の庭に咲いていて、個人的に思い出のある花です。それから、「ミヤコワスレ」という名前がいいなと思って(笑)。

――それぞれ幼い頃の思い出を一つ一つ掘り起こして集めて、作っていったという感じですね。
そうですね。

・左:画像1「スズランストール」 ・右:画像2「マーガレットカーディガン」

   

印象深いものは、個人の記憶から連想されるもの

――「個人的な記憶」を掘り下げて作っていったと。その結果出てきたのが80年代から90年代初めのテイストなのですよね。それから、「エレガンス」というのがテーマに出ていて、今の空気ととてもマッチしていると思ったのですが、それは偶然出てきたものなのですか?
小学校3、4年生の頃の授業参観の母親たちのファッションや当時自分が憧れていたものが強く心に残っています。その頃は篠原ともえさんの格好をまねする「シノラー」や安室奈美恵さんの格好をまねする「アムラー」がブームでした。自分がまだ小さく、そのようなファッションができなかったので、より強いあこがれがあったのだと思います。
そういうのもありネオンカラーを、このリブ編みのニットに隠して編んでいます。一見、一色に見えるものにも数色の糸を混ぜて編み、動きにより裏目のネオンカラーの糸がのぞきます。スタイリングに使ったサンダルも当時流行していた厚底サンダルを意識しており、靴下もその頃に流行っていたルーズソックスと同じ編み組織で編んでいます。そして今回トップスのウエストはすべてシェイプさせています。通常ニットはあまりウエストを絞らないのですが、シェイプさせることによりエレガントな女性らしいシルエットを提案しています。

――お母さんのエレガンスな服装と、ご自身が当時憧れていた服装のイメージが混ざり合っているということですよね。それぞれにきちんと意味が込められているからこそ面白い表現になっているのだと思うのですが、そういうのって作り手側からすると知って頂きたいものですか、買う人に?
知って頂けたらもちろん嬉しいですが、着ていくなかで、こんな糸が混ざっていたんだなと驚いてもらったり、その程度でいいです。気づいたときに何か考えたり、感じてもらえたら嬉しいです。
私は吉岡徳仁さんが好きなのですが、21_21デザインサイトで行われた「セカンドネイチャー」展で人の記憶を通して生み出された世界をコンセプトに展開している企画展示がとても面白いと感じました。同じものをテーマにしても、その人によって出てくるイメージや想いがそれぞれにあるということ。例えば雲を連想すると、夏の積乱雲だったり、秋のうろこ雲だったりと人によって印象深いものが異なるということです。印象深いものは、個人の記憶から連想されるものだと私は考えています。なので、私のコレクションを知って頂くということより、コレクションから記憶を通してなにかを感じてもらえるようなものであれたらと思います。

――最後に、今という時代における服作りについてのお考えをお聞かせください。
先ほどもお話ししましたが、それぞれの人たちの記憶や思い、考えなどを通して、新しいものが生まれていく、考えるきっかけを与えられるような服作りをしていけたら嬉しいです。

「後編(1-2)」へつづく

   

小高 真理(おだか・まり):
2009年文化女子大学卒業、2011年文化ファッション大学院大学卒業後、2012-13AWよりミキオサカベ、ジェニーファックスのニットを担当。2012年12月より自身のブランド「マラミュート(malamute)」を立ち上げ、ストールや小物の展開をはじめる。2014-15AWより本格的にスタート。
http://malamute-knit.com

・2014-15AW「She’s A Woman」