「人々の装いについて学ぶ」とは一体どういうことなのだろう。
4年制の大学に在籍している私は、2年次に20世紀のデザイナー史をまとめ、3年次からアレキサンダー・マックイーンについて調べている。学部の教授陣に服飾文化に精通した方がいないことは不満ではないが、ほぼ独学で服飾文化について学び、ただ1人のデザイナーについて追求していると、出来上がる論考や批評に深みを出すことがなかなか難しい(もちろん私の努力不足でもあります)。知らず知らずのうちに視野が狭まって、どのようにコレクションを見て、どのように書けばいいかわからなくなったりもする。
そんな私は先日、「Think of Fashion 025 ポール・ポワレ ライフスタイルブランドの先駆者」に参加した。Think of Fashionとは、このWebマガジンを発行しているFashion Studiesが定期的に開催する「人々の装いについて学ぶ場」としてのトークイベントで、今回私が参加したのは神戸大学の朝倉三枝准教授が講師として登壇された回だ。
実は以前にも井上雅人先生の回(「Think of Fashion 021 長沢節 洋裁文化のイコン」)に参加したことがあるのだが、その時と今回とで繰り返し感じたことがある。それは、「人々の装いについて学ぶ」という学びのあり方は想像以上に多様であるということと、それら多くの学びを「人」を通して知ることの大切さだ。
前者については、今までに開催されたThink of Fashionのタイトルを眺めるだけでも感じていただくことができるかと思う。「人々の装い」を軸に、あるいはそれを延長線上に置いた学びが様々な方法で行われているのだと知ると、それだけでぐっと視野が広がる。
後者については、私の周りに服飾文化に興味のある学生が少ないことも関係しているが、本からではなく人から学ぶということは、こちらの質問に応えてもらったり、脱線した話から新たな関心事を発見できたりと、一人の時とは全く違う学びができ、とても楽しかった。
これらの経験は決して学問対象として「人々の装い」に興味がある人にだけ得のあるものではないはずだ。おそらく「服が好きだ」と思う人は、参加することで必ずその「好き」の意味を考えずにはいられなくなるだろう。そもそもThink of Fashion以外で、ファッションにまつわる貴重なお話を職業・年齢関係なく聞ける場なんて日本にはそうそうない。
好きで選んだマックイーンを、ヘタな卒論で台無しにしないためにも、「人々の装いについて学ぶ」とは一体どういうことなのだろうかと、「人々の装い」について学びながら、その学びのあり方も探り続けたい。
糸数かれん(学生)
2015/4
Think of Fashion:
人々の装いについての文化や社会現象などを考えていく会。ファッションを研究する識者などを招集し、月1ペースでトークイベントを開催している。
Facebook: https://www.facebook.com/think.of.fashion
Webページ: http://fashionstudies.org/think-of-fashion/
Index:
#026 ウィリアム・クライン お前は誰だ? ファッション映画三部作から、魅力を読み解く。/芳野まい
#025 ポール・ポワレ ライフスタイルブランドの先駆者/朝倉三枝
#024 ギャル文化論 ギャル文化とは、何か。/荒井悠介
#023 Christian Dior 改めて、ディオールとは何かを考える/西谷真理子
#022 「服の記憶-私の服は誰のもの?」展を考える/辻瑞生
#021 長沢節 洋裁文化のイコン/井上雅人
#020 イヴ・サンローラン 芸術家とデザイナーの狭間で/井伊あかり
#019 シンデレラ・テクノロジー beautyを考える: 新デジタル時代のアイデンティティ・テクノロジー/久保友香
#018 ミントデザインズ “日常性”の再考/田中里尚
#017 金子功とピンクハウス 「ロマンチック少女」の時代/菊田琢也
#016 ガブリエル・ココ・シャネル 革命の秘密/中野香織
#015 ジャンヌ・ランバン ファンタジーとリアリティの共存/朝倉三枝
#014 ピエール・カルダン “明日”を創り続ける越境者/井伊あかり
#013 ファッションと写真を考える、ファッションとアートを考える/兼平彦太郎
#012 TOKYOインテリアツアー インテリアから見るファッションブティックの現在形/浅子佳英・安藤僚子
#011 マドレーヌ・ヴィオネ ファッションと“美しい”身体をめぐって/井伊あかり
#010 Alexander McQueen アレキサンダー・マックイーンの皮膚/菊田琢也
#009 クレア・マッカーデル 現代ファッションの開拓者/蘆田裕史
#008 コムデギャルソン論争とアンアン革命 DCブランドブームを考える/井上雅人
#007 Thom Browne 2000年代以降のメンズ・スーツ/石関亮
#006 ネオ・ジャポニスム再考 洋服をデザインする困難の克服、明治の職人から山本耀司まで/安城寿子
#005 A BATHING APE® 1990年代、リミックスとリラックス/依田健吾・菊田琢也
#004 ハトラ 空間の(脱)領土化/星野太
#003 語られない1970年代のコム・デ・ギャルソン/工藤雅人(特別ゲスト 西谷真理子)
#002 keisuke kanda 「ガーリー」の突然変異/小澤京子
#001 ヴィヴィアン・ウエストウッドとその受容/菊田琢也