座学
2016-17年秋冬東京コレクションを振り返る

第1部 9人のデザイナーに聞く

「座学 東京コレクションを振り返る」は、東京ファッションウィークが終了した直後に、最新コレクションを発表したデザイナーたちを呼び、今シーズンについての話を伺う。あるいは、ジャーナリストやバイヤー、研究者なども交え、東京コレクションの現状と課題などについて話し合うイベントである。

7回目を数える今回は、BEAMSの南馬越一義氏がモデレーターを務め、第1部では9人のデザイナーによるコレクション解説を、第2部では全体討論として「See now, Buy now」「TOKYOはアジアのファッションマーケットのハブになり得るのか、インバウンドにどう対応していくのか」という二つのテーマについて話し合った。

座学 2016-17年秋冬東京コレクションを振り返る 第1部 9人のデザイナーに聞く
座学 2016-17年秋冬東京コレクションを振り返る 第2部 全体討論: 東京コレクションの可能性

   

参加者: 
モデレーター:
南馬越一義(BEAMS創造研究所シニアクリエイティブディレクター)
登壇者(デザイナー) *50音順:
天津憂(Hanae Mori manuscrit)/今崎契助(PLASTICTOKYO)/岩田翔(tiit tokyo)/落合宏理(FACETASM)/坂部三樹郎(MIKIO SAKABE)/丸山敬太(KEITA MARUYAMA)/三上司(TSUKASA MIKAMI)/森下慎介(LAMARCK)/吉田圭佑(KEISUKEYOSHIDA)
登壇者(ジャーナリスト、バイヤー、研究者) *50音順:
五十君花実(繊研新聞社 記者)/小川徹(放送局プロデューサー)/菊田琢也(ファッション研究者、Webマガジン「FASHION STUDIES」編集)/軍地彩弓((株)gumi-gumi 代表取締役、「ヌメロトウキョウ」エディトリアルディレクター)/高野公三子(アクロス編集部 編集長)/ミーシャ・ジャネット(ファッションジャーナリスト、ファッションブロガー)/寺澤真理(三越伊勢丹 婦人第一商品部バイヤー)
企画・運営:
篠崎友亮(ファッションスタディプランナー)/西田拓志(デザイナー兼coromoza主宰)
映像配信:
ヒラタモトヨシ

   

1. デザイナーによるコレクション解説

KEISUKEYOSHIDA

吉田圭佑(ケイスケヨシダ デザイナー)
今回のテーマは「出会いと衝動」。元々、日本の思春期の中高生たちの装いだったり、そこにある感情というのをテーマとして作っていて、前回は学校帰りにカラオケに行ったり、漫画を読んで寝ているような子たちの日常を日本のユースカルチャーとして捉えたが、今回は、そんな子たちが初めて洋楽やスケートといったかっこいいカルチャーに触れたり、異性を気にし出したりして、あっているのか間違っているのかわからないけど、かっこつけたいという気持ちのまま突き進んでいくような感情で作った。ヤンキーという感想が多かったのですが、ヤンキーというよりもカッコつけ過ぎちゃった故に髪の毛染めたり、ダメージ・ジンーズを履いたりして、グレてないんだけど、お母さんや先生から「あの子グレちゃった」って言われちゃうような感じの子たちです。
2回目の参加、しかも会場がヒカリエホールAということで、前回ほどフレッシュな目で見てもらえないというところがあって、確変的な内容ではなかったかなと。ただ、前回より着実にコレクションの内容を良くしたという部分があって、決してそれは悪いことではないとは思いますが、ディベロップしたコレクションというところは否めないです。

・KEISUKEYOSHIDA 2016-17AW(ヒカリエホールA)

   

TSUKASA MIKAMI

三上司(ツカサミカミ デザイナー)
今回は、先シーズンの続きのようなところがあって、紛争が絶えない時代に迷彩服を表現しようと思った。テーマになっているスーザン・ソンタグの『他者の苦痛へのまなざし』はメディア論みたいなところがあって、紛争や悲惨な状況を映した写真がマインドコントロールに使われているという負の側面を取り上げていて、実際の真実が見えにくくなっているという状況はあると思う。平和を願うメッセージということではあるのですが、自分の中の矛盾した気持ちというのも同時に服の中に入れている。もちろん、着てもらう方がメッセージを受け取って着てもらうのも、物だけ見てこれいいねって着てもらうのも、どちらでもOKだとは思っています。
実際に買われる方の反応としては、迷彩だけどエレガントに見えて綺麗だねというのが多かった。Pコートなど軍服がモチーフになっているアイテムはたくさんあるが、迷彩柄は軍隊や戦争をあまりにもイメージさせるものだから、日常に溶け込んでるとはいっても僕には違和感があった。ただ、花を載せることで違った意味を持たせて、日常着に落とし込んでみたら面白いんじゃないかなと。

・TSUKASA MIKAMI 2016-17AW(ヒカリエホールB)

   

PLASTICTOKYO

今崎契助(プラスチックトーキョー デザイナー)
「渋谷のスクランブル交差点」がテーマで、様々な人がぶつかり合わずにすれ違うような、無秩序だけど秩序のある空間というのが東京らしいなと。渋谷のヒカリエで表現する上では良いテーマだと思って選んだ。
ただ、今シーズンのテーマを何となく考えていた時期に、パリで同時多発テロがあって、ファッションをやっていく上でこれは避けて通れないと思い、そこを深層として表現しています。プラスチックトーキョーはいろんな人にライトに共感してもらいたいと思っているので、直説的には表現していないのですが、デザインの道標や骨組みはそこから取らせてもらっている。
例えば、包帯や血といったものをスクランブル交差点の横断歩道や信号の赤に擬態させて、表層的にはスクランブル交差点の中の光景というものを表現している。ラストルックは、スクランブル交差点の光景が倒壊していくようなイメージを、短冊状にしたリボンで表現した。ただ、ショーに関してはエモーショナルな感じではなく、モデルが冷静に淡々と歩いていくような演出をお願いしました。以前、日本で震災があった時にも、パニックにならずに冷静で規律正しく行動していたところが日本人の美徳と感じていて、スクランブル交差点にも通ずるものがあると思ったので。

・PLASTICTOKYO 2016-17AW(ヒカリエホールB)

   

tiit tokyo

岩田翔(ティート トウキョウ デザイナー)
カラッとした抜け感のある野外でやりたいというのがまずあった。「dawn(夜明け)」というのがテーマ。ファンタジー過ぎるものよりも、リアリティがあるファンタジーみたいな、その合いの子のような映画が昔から好きで、夢と現実の間みたいな夜明けの感じや、河原の日の出写真とかも好きなので、不思議な空気を今回のコレクションで表現できたらいいなと。
今回、デタラメというか、ぐちゃぐちゃにスタイリングをしているんですけど、早朝に、薄着の上にムートンジャケットを羽織り、人の目をあまり気にしないで急いで出るみたいな、自由な空気感をとにかくやりたかった。そういった抜け感と、ティートらしいフェミニンでパステルカラーを大切にするという空気感を、自由なスタイリングで出せたらいいなと。アウターはいつもより価格帯が上がっていて、高級な素材を使っているんですけど、それをラフに自由に着るみたいなのを表現したかった。靴とかもストラップを全て外して歩かせたりしている。とにかくルールを気にしないで、今の自分の気分を自主開催でやりたいという思いがあった。

・tiit tokyo 2016-17AW(秩父宮ラグビー場)

   

KEITA MARUYAMA

丸山敬太(ケイタマルヤマ デザイナー)
もう20年以上コレクションをやっていますから、テーマみたいなものって、その時の自分の気分を拾うみたいなものでしかないので、何でそうなったのかというのは説明できないんですけど、今回はダークロマンチックみたいな、夜に見る夢というか夜しかない国みたいな、そういう自分の中で常に妄想している、その妄想の中の住人たちが着るような服をデザインしたかったという感じです。
紆余曲折20年やってきたが、洋服を作るのはやはり大変。ビジネスできちっと支えていくことが、ブランドビジネスにおいてすごく大切なことだと思っていて、そういう意味では、最近ようやく形になってきたかなというところ。新しいトライアルやこれからやりたいことができるベースをきちんと作っていける感じが見えてきた。なので、心は安定した状態でものづくりができ始めているかな。
改めてオリジナルの素材にこだわっていて、プリントやジャガードは以前からオリジナルでやっているが、今回は色を抑えめにした分、手の込んだ奥行きのある素材やプリントを作り込みました。素材はほぼ100%日本のものを使っています。

   

Hanae Mori manuscrit

天津憂(ハナエモリ マニュスクリ デザイナー)
今回のテーマは「インオーガニックとオーガニック」。ショーをする時には常に構成から考えるようにしていて、今までは82体ぐらい出していたので、ストーリーを追って、中休みを入れながら最後のフィナーレに向かうという見せ方をしていた。しかし、今回は45体で見せるというのがまず決まっていたので、前半は、ブロック分けでコントラストをしっかり出していった。相対するものというところで、ボルドーとライトグレー、黒とグリーンというような配色を使っている。
ショー後半に登場する花のプリントは、切り花。切り花の死んでるのに生かされているというようなところが、すごく儚いものに感じたので、伏線を張りながら最後のプリントに向かっていった。
最後の蝶は携帯で撮った写真です。エクスペディアで撮ったんですが、解像度が4Kを超えてるのでほぼカメラと一緒なんです。それをウールにインクジェットプリントすると、角度を変えると色の濃さだったりニュアンスが変わる。撮影した蝶はつがいで、メスとオスとで表情が全然違う。地味なメスに対して派手なオスというのをハイクオリティでどれだけ撮れるのかというのをやりました。テクノロジーとのコラボで言えば、360度VRでルックブックを作ったりもしています。

・写真左:KEITA MARUYAMA 2016-17AW(ヒカリエホールA)・写真右:Hanae Mori manuscrit 2016-17AW(ヒカリエホールA)

   

LAMARCK

森下慎介(ラマルク デザイナー)
今シーズンのテーマは「TRANQUILITY」。静穏という意味で、女性の静けさや佇まいを表現したいなと思って、そのテーマに基づいて会場を探した。また、小さな空間で見せる服というのもいいのかなと思い、一軒家をリノベーションしたようなハウススタジオを選びました。時間帯に関しても、テーマに基づいて、朝の静けさというか清々しさの中で一発目に見せたいというのがあったので、9時からに。
今回、どちらかというとランウェイショーのような形式をあまりしたくなかったので、通常のベンチシートではなく、ソファーやアンティーク調のイスをバラバラに並べた。照明機材なども一切使わず、窓から入る光だけでやるなど、機材をあまり入れずに最小限のものだけでやった。ショーを見ているというよりは、部屋の中で服を見るサロンショー的な形を取った。
リラックスした部分と、今の女性が持っている柔らかさや芯の強さみたいなところを表現したいという部分がありました。

・LAMARCK 2016-17AW(ハウススタジオ PHOME)

   

FACETASM

落合宏理(ファセッタズム デザイナー)
東コレ自体は9回やりました。それからミラノで1回やっているんですが、海外に行く回数が増えてきて感じたのは、東コレは優遇され過ぎているということ。ヒカリエという会場は恵まれ過ぎていて、大きいメゾンでもあんなところでショーはやっていない。僕らもずっとヒカリエでやっていたので何とも言えないが、みんなが同じところで同じショーをやっているというのは、今考えるとおかしいなと。違うオリジナリティを出したくてコレクションをやっているのに、何でみんな同じ場所で同じことばかりやっているのかなって、ある時から思ってはいた。
世界から見ての話ですが、海外は東京のことなんて全く意識していない。パリコレに出ているブランドだけでも山ほどあるのに、東京のブランドのことなんて知るはずもない。東京コレクションもソウルコレクションも上海コレクションも全部同じ。ごく一部の人が東京に来て面白いねって言ったことに対して、国内で過剰に反応しているだけ。とは言っても、東京だからビジネスが成り立ってしまう。別に世界に出る必要がないというのもあるので、そういう部分でデザイナーとして見極めなければいけないなとは思う。
ただ、東京をネガティブに言うつもりはなくて、プラスの部分もある。僕はそれで世界にも出れそうなので、ポジティブには捉えていますけど。

   

MIKIO SAKABE

坂部三樹郎(ミキオサカベ デザイナー)
前シーズンから、サブカルチャーからグローバルなものにデザインを変えていこうと思っていた。前回はジェニーファックスとショーをやるというところで、今までの雰囲気を残しつつちょっとヨーロッパ風に変えた。今回は、LVMHプライズ(LVMH Young Fashion Designers Prize)に持って行った作品を発表としていて、これからヨーロッパでやっていくステップとして捉えている。
ヨーロッパのルールを日本で崩すというのはすごく難しい。日本でやっていても「ルール外」みたいなところがある。モードとは違うところからのカウンターというのは大事だとは思っていて、ただ、日本でやるよりもヨーロッパに向けてカウンターをやるほうが、道筋ができている気がする。日本でやることも大事だが、本質的な部分での新しいカウンターみたいなものに関しては、ヨーロッパでやった方がいいのかなと。僕は海外で学んできたことが中心になっているので、ヨーロッパでもきちんとやっていかないとダメなのではというのが最近の結論です。

・東京コレクションを振り返る会、当日の様子  ©2016 Photographer T.Seki

   
   

2. ジャーナリスト、バイヤーの提言

小川徹(放送局プロデューサー)
東京コレクションの特徴はバリエーションがあって、いろんなブランドが出てくるというところ。今回の最終日にTOKYO FASHION AWARDで賞をもらったブランドが一堂に会してプレゼンテーションやショーを見せてくれる機会があったが、普段は展示会を中心にやっているブランドが多かったので、どういう世界観を持って見せてくれるのかという点に注目して見ていた。いろんなジャンルが見られるというのが東コレの一つの特徴なので、このまま続けていくのか、もっと先鋭的に海外に通用するブランドをやっていくのかという点で岐路に立っている気がします。

高野公三子(アクロス編集部 編集長)
私は路上を観察するのが仕事なので、東コレの基本的な見方としては、日本とくに東京のリアリティが感じられるというところと、どんなふうに物に落ちているのか、物を見ただけで、これいけてる、着られる、欲しいと思うかというところ。きっとあの人着るなとか見たいなものを想像できるかという視点で見ています。それでいうと、ティート トウキョウ、ツカサミカミ、ラマルク、ドレスアンドレスド、リトゥンアフターワーズ、プラスチックトーキョー、東京ニューエイジ、それから、最終日のネームとエトセンス、アンドワンダー辺りは面白いなと個人的には思いました。デザイナーが込めた思いを丁寧に説明することが大事だと感じたシーズンです。

五十君花実(繊研新聞社 記者)
今回すごく感じたのは、入れ替わり時期だということ。ファセッタズムやウジョーなどが海外に発表を移したことで、ちょっと目玉のブランドが減っちゃったねという方もいれば、だからこそ若い人に光が当たるチャンスなんだよという方もいた。紙面で報道していくときは、次の世代はこういう人たちがきっと担っていってくれるんだというのをなるべくわかるように書いてきたつもりです。とは言え、注目ブランドが巣立っていったというのは事実なので、これまでと同じ盛り上がりがあったのかというと、そうは言い切れないかなっていうのが正直なところで、業界紙の記者としては歯がゆく思っている。だからこそ次の世代をどう見つけて、育成していくというのを我々媒体もやらないといけない。

寺澤真理(三越伊勢丹 婦人第一商品部バイヤー)
私が主に担当している業務は、TOKYO解放区という若手のデザイナーにクローズアップした企画をやるスペースです。ただのプロモーションスペースではなくて、インキュベーションするという言い方をしてるのですが、私としては、まだまだ荒削りだけど、こんなにファッションが大好きで、熱い思いを持って作っている若手デザイナーがたくさんいると思っていて、そういうブランドの良いところをどうやって見つけて、お客さまに紹介するかという目線でショーを見ています。どこを活かせるかとか、どこを引き延ばしてあげると、お客さまによりよく伝わるかというディレクター的目線で見ています。

・写真左:小川徹氏(左)、高野公三子氏(右) ・写真右:五十君花実氏(左)、寺澤真理氏(右)  ©2016 Photographer T.Seki

ミーシャ・ジャネット(ファッションジャーナリスト/ブロガー)
今の東京のファッションはデザイン性が貧しい。ブランドもそうだけど、ショップのセレクトも同じような服がいっぱい並んでいる。ベーシックなものに一つだけちょっとしたディテールを入れるのが東京風。トレンチにちょっとしたレースが付いているとか、ポケットがプリーツになっているとか。それはファッションではないと思っています。
今回は、3シーズン目ぐらいのブランドが多いですが、3シーズン目が一番難しいですね。自分がやりたいことだけではなく、売れる服も出さないといけない。今回の東コレには、これだというブランドはなかったです。

南馬越一義(BEAMS 創造研究所 シニアクリエイティブディレクター)
僕は元バイヤーなので、セレクトショップのバイヤー目線で結構可愛いじゃんとか、ちょこっと気が利いているみたいなものに惹かれるというところがあって、今回のコレクションはリアル感があるブランドがすごい増えた。これ、セレクトショップでやれるのではというのが見えた。バイヤーの時の気持ちが蘇って、ムクムクと気分が上がった時はあった。

軍地彩弓((株)gumi-gumi 代表取締役/「Numero TOKYO」エディトリアル・ディレクター)
転換期だと思います。今後、JFWの形で続けていけるのか?というぐらい危機感も感じているし、メルセデスベンツが降りた時に成立するのかということも考えてしまったショーでもありました。ケイタマルヤマのショーは夢があって大好きで、こういう夢を見させてくれるブランドが減っちゃったなと。セールスとプレゼンテーションというところのせめぎ合いなんだと思いました。
今回、LVMHプライズ(LVMH Young Fashion Designers Prize)の発表に伺ったんですが、世界から23ブランドをピックアップしていて、そこに日本から4ブランドが入っているんですね。ミキオサカベとソウシオオツキとコイケ、そしてファセッタズム。一つの国から4ブランド入ったのは初めてというくらい日本ブランドのピックアップが大きかったんです。日本のクリエイティブに注目はしているんです。ただ、それに対応できるような人をこれから輩出していけるかというと、今回の東コレを見ての感想で言うと、もう少し踏ん張って欲しいなと。

・写真左:ミーシャ・ジャネット氏(左)、南馬越一義氏(右) ・写真右:軍地彩弓氏  ©2016 Photographer T.Seki

座学 2016-17年秋冬東京コレクションを振り返る 第2部