座学
2016-17年秋冬東京コレクションを振り返る

第2部 全体討論: 東京コレクションの可能性

   

セッションテーマ 1. See now, Buy now

ーー南馬越一義=聞き手:今回、ニューヨークコレクションでの新しい試みとして、ショーを見た後にすぐ買える(see now, buy now)ということをいろんなデザイナーがトライしています。例えば、ダイアン・フォン・ファステンバーグラグ&ボーンがそうですが、レベッカミンコフは3月に丸ごと春夏コレクションを発表し、店舗とEコマースの売り上げが共に過去最高を記録したという話もある。パリではどちらかというと否定されていますが、日本だと東京ガールズコレクション(以下、TGC)が既にやっていたということもあって、この流れというのが東京コレクションのデザイナーたちに新たなチャンスを与えるかどうかというところを検討していきたい。

軍地彩弓:TGCが始まったのは今から5年前で、その母体であったF1メディア(現W media)が、ファッションウォーカー(fashionwalker.com)というのを持っていたんですね。イベントだけだと収益が上がらないので、そこと繋げるというビジネスモデルでTGCは始まっていて、苦肉の策で作ったシステムではあるんだけれども、彼らなりに思いはあって、彼らがやろうとしていたのはファッションを民主化しようということなんです。
ファッションショーは限られたジャーナリストとバイヤーしか見られない。下手したら世界で500人ぐらいの人しか見られない。そこに入ること自体がステータスで、ヒエラルキーのトップの人たちが見て伝えていくというのが成り立っていたのが、パリ、ミラノのコレクション。それを、TGCはそうじゃなくて、街にいる女の子たちに伝えるんだったら、例えば3月だったら春コレクションを出そう、ショーを見に来た子たちがケータイですぐに買えるシステムを作ろうとした。しかし、ビジネスとして成長仕切る前に、イベント寄りに変えてしまったので、現在はモデルやタレントを見るイベントになっていて、ほとんど物は売っていません。今回からWEAR(ウェア)が入ったのでちょっと変わるかもしれませんが。

大幅な意味では、スマホ時代が作ったファッションの民主化だと思っています。今で言うと春夏のものが並んでいるのを、私たちは半年前の9月にニューヨーク、パリ、ミラノで見る。そこで、バイヤーは何がいいかを選定してバイイングし、ジャーナリストは半年後の表紙に使うルックを決めます。実は、「半年」という期間はファッションにおいてすごく大事な時間なんです。生産のラインの話で言えば、半年の間でどういうものがウケたかによって、ショールックには出したけど販売しないものもあるし、逆にこのルックは生産数を増やそうというものもある。また、ジャーナリストの立場で言えば、コレクションウィークの後に、今年のルックを決める会議をします。編集者たちが世界中で見てきたものを集めて、どのルックが私たちの表紙にふさわしいか、8月から1月までの秋号をどういった特集で飾るのかを話し合います。そういうふうに時間をかけて丁寧にものづくりをしていたのが、これまでのジャーナリズムであり、ラグジュアリーの世界だった。

私は全てが「see now, buy now」に変わっていくとは思っていません。ブランドの戦略が分かれていくのではないでしょうか。カール・ラガーフェルドも否定的な発言をしていますが、パリ、ミラノは絶対に変わらないと思います。しかし、ニューヨークとか、一般の人たちに近いものをショーで発表しているブランドは、「see now, buy now」をやっていかないともたなくなると思います。
なので、地域によって発表するシーズンが変わってくると思っていて、もっと言うと、みんな同じ時期にショーをやらなくてもいいんじゃないということにもなるんです。ユーストリームなどでショーを発表して、自分たちのEコマースに繋げることもできる。だから、大掛かりなシステムの中に入らなくても最早良い。しかし、それができるのは、独自に力を持っているブランドです。グローバルECを持っていること、グローバルなウェブ展開ができていること、グローバルな波及性、拡散性を持っているブランドです。自分のサプライチェーンでものづくりができているところは可能なので、バーバリーがやるのはすごく理解できる。
東コレのブランドは、すぐ買いたい、着たい服が多いと思うんですね。「see now, buy now」に関しては親和性が高いと思っています。

ーー南馬越:そこまで民主化はしないけれども、グローバルな中では多様性が出てくると。

軍地:そうですね。逆に日本の強みというところに特化できるのかも。ヨーロッパにおもねったやり方ではなく、日本ですぐ買えるものが欲しいんだったら、フロア・ショーをやるとか。ラマルクのプレゼンテーションに近いやり方というのは、実は正しかったりするのかなとも思います。自分のお客さんがどこにいるのかということをきちんと理解する。また、東コレで出すことがプラスなのかマイナスなのかということも考えるべきかなとは思いますね。

・写真右:南馬越一義氏(BEAMS 創造研究所 シニアクリエイティブディレクター)
・写真左:軍地彩弓氏(「Numero TOKYO」エディトリアル・ディレクター)  ©2016 Photographer T.Seki

   

ーー南馬越:実際に服を作られているブランドのお話も聞きたいのですが、生地とかもあるわけじゃないですか。今のシステムを変えるのは難しそうですけど、作るということにおいての現実性はどうですか。

丸山敬太(KEITA MARUYAMA):どういう形でどういうものを自分のお客さまに届けたいかで全然変わってくる。例えば、直営店だけやっているのであれば自由自在だし、卸中心にいくのか百貨店との関係性を作っていくのかというところで、全然変わってくるんですね。納品する時期も変わってくるし、求められることも変わってくる。
Eコマースの出現によって、割と自分たちでコントロールできるようになってきた。トップヒエラルキーの限られた人たちの目を通して広がっていくことに価値があった時代が過去にあって、そういうことが今でも合うブランドがあれば、そうでないものもあるので、僕は誰に向けてものを作って、どういうふうに売りたいかということがこれからすごく大事だと思っている。
ここ2シーズンは、どちらかというとメディアの方に向けてというよりは、顧客の方たちに向けてショーをやろうと思ったので、すぐにネットで配信したり、顧客を展示会にお呼びし、対面して洋服を売っていくというのをやっています。僕の服が好きな人たちは、リアリティなものプラスちょっとしたドリームというかエンターテイメントを見せて欲しいと思っている方たちが多いので。パリコレクションに以前参加していた頃のショーのあり方とはちょっと違いますね。

ーー南馬越:物理的にやろうと思えばできますか。ブランドの体制として。
丸山:どのシーズンのものを見せるかということで違ってくると思うんですね。簡単に言うと、今、顧客に向けてショーをやろうと思えば、店頭にある商品でできるので、新作をいつ発表してどうこうということではなくて、直接お客さまに買って頂くためのエンターテイメントとしてのショーのあり方というのはあるのかなと。今、面白いと思っているのは、イベント的なことやちょっとしたフロアショーなどの顧客に向けてのサービスをすればするほど売り上げが伸びるという現状です。

ーー南馬越:寺澤さん、バイヤー的な観点ではどうですか。
寺澤真理:私の仕事は、デザイナーがどれだけの思いを持って作っているかということをお客さまに伝えることです。今すぐ買って頂ける方が良ければその形をとりますし、もう少し思いを馳せて、次の秋冬何が欲しいかなとか思いながらというのが良ければ、その形をというふうに私自身は思っています。あと、東コレに出ているブランドは、ショーの直後に買えるというのはすごく親和性があると私も思います。あとは生産などの体制がどれだけついていけるのかなというところでしょうか。

五十君花実:ファッションショーを盛り上げるという意味ではそのやり方はあるのかなと。どれだけ在庫を積むのかというのはすごく難しい問題だと思いますが、全部が全部すぐに買えるようにしなくてもいい。マイケル・コースも一部だけ次の日からECサイトで売っていたと思います。正直、今何が正しいのかなんて誰もわからないし、みんながみんな苦悩している中で、ニューヨークはああいう方向をとって、パリはそうじゃないと言っていて。今しなければならないのはもがくことだから、そういうことをしてもがいてみるのも未来のためにはいいのでは。

・写真左:丸山敬太(KEITA MARUYAMA)
・写真中央:寺澤真理氏(三越伊勢丹 婦人第一商品部バイヤー) 
・写真右:五十君花実氏(繊研新聞社 記者)  ©2016 Photographer T.Seki

   

ーー南馬越:トライアンドエラーということでしょうか。レベッカミンコフは本当にすごいんですよ。前のシーズンの春夏ものも見たんですけど、今回も同じ商品が出てるんですよ。デザイン性どうこうではなくて、思い切ったことをするのはすごいなと思いましたね。僕自身としては新しい試みというのにすごく興味があるので、正直ワクワクはしました。確かに売るチャンネルがあったり、体力がないと作り込めないわけですが、逆に、東京コレクションの枠組みの中だと、手作りに近いブランドだったら実はできちゃうんじゃないかなとも思ったりもする。

軍地:アメリカのブランドはセールスの力が日本と全然違う。自社のサイトの中にすごいユーザー数を持っていて、レベッカミンコフはインスタグラムなどへの力の入れ方がどこよりも早かった。レベッカもマイケル・コースも生産体制などの点で簡単にシフトしやすいバックグラウンドがあるということも加味しておく必要があって、みんなが同じ条件というわけではない。オートクチュールみたいな服作りをしているブランドには絶対に無理な話だと思う。
半年前に発表して、そのあとにもう一回ダメ出しでショールックをオンシーズンで動画で見せるというやり方はありかなと思います。私もよくインスタで「展示会なう」とかって上げるんですけど、みんな買えると思って行っちゃうんですよ、お店に。今、インスタの恐ろしさというのは、数秒後に同じ行動を起こせること。ファッション業界の人たちは展示会の仕組みを知ってるんですけど、知らない人にとっては展示会も販売も一緒なんですよね。

ーー南馬越:即、インスタに上がって、それ見て盛り上がるんだけど、半年後までその興味は続かないという流れなのインスタグラムって?

ミーシャ・ジャネット:私みたいなSNS発信者は、今何が面白いか、今の気分で何を発信したいというのがあるから、今の気分で何が「いいね!」になるかというのを見極めて探します。それで展示会回ったりして、良いものを写真撮って、ダメな写真は上げない。絵にならないブランドは投稿しません。フォロワーが減っちゃうとかもあるので。絵になるものを探して、写真撮って投稿しているから、投稿していないブランドはなかったことになる。ショーをやってくれたのに、照明がダメだったとか、自分の席から良い写真が撮れなかったとかだと、写真がアップできない。自分で良い写真撮れたらアップするけど、だから本当に恐ろしい。

ーー南馬越:東コレは写真が取りづらいよね。
ミーシャ:照明がね。イメージにこだわりすぎて、照明を落とし過ぎたり、ムーディー過ぎたりすると撮れない。だから、半年前の発表の仕方と、オンシーズンの発表の仕方を分けてもいいかなと。

・中央:ミーシャ・ジャネット氏(ファッションジャーナリスト/ブロガー)  ©2016 Photographer T.Seki
   

ーー南馬越:イメージと実在ということでね。いろんな立場でのあれがあると思うんですけど、「see now, buy now」という試みは、中を抜いてではないけど、店舗を持って直接お客さまと、B to C的なところが強くなるじゃないですか。東京のブランドはお客さまとの距離が近いと思うんですが、単純にお店に卸す、百貨店に卸すということだけではなくて、自分なりの売り方みたいなのを考えているデザイナーはいますか。

吉田圭佑(KEISUKEYOSHIDA):僕のブランドは、7割ぐらいをお客に直接売って、3割ぐらいをお店に卸しています。お客のほとんどは10代後半から自分と同い年ぐらいの年齢。前回の「ゲーマールック」で知ってくれた人が多くて、twitterでフォローしている人からDMで売ってくださいとかもある。
共感がすごい大事なブランドだと思っているので、展示会や直売に実際に来てもらって喋った子に、買ってもらうというのを広げていきたいと思っている。顧客になってくれるような若い子たちに売れる場とか、その子たちが繋がっていく場というのを増やしていきたい。それから今、写真に力を入れていて、5月の頭ぐらいを目標に写真展形式で、一般の人に向けて販売をやろうと思っています。

ーー南馬越:お客との距離が近いという東京の特徴は、ブランドを覚醒化する可能性があると思います。

小川徹:今回展示会をやっていたブランドの中に、オートクチュールに挑戦するブランドがあります。もしかしたらオートクチュールの民主化みたいなのが起きるんじゃないかということで、これからは、卸ではなくて個人を相手にしたいと。もちろん最初から公式スケジュールには載らないわけですけども、何回か挑戦して、パリのオートクチュールで培ったノウハウを日本の顧客に広げていきたいというブランドも出てきているので、いろんな形で広がっていけばいい。

軍地:テクノロジーがもたらす未来というのは、パーソナライズというか個人と個人が繋がれる時代だと思っていて、それがB and Bだっとりとか、UBER(ウーバー)もそうですよね。テクノロジーと日本のファッションがくっついていくところって、ショッピング体験の部分が一番大きい。
これまでのファッションショーのシステムは、見る人を限定していた。ショールックもジャーナリストにウケるということを目標に作っていたところもあったが、これからは自分が作りたいものを一人の顧客のために作るといったことも巻き起こってくる時代なのでは。それから、服を作って終わりではなくて、いかにそれを顧客に伝えるかまでが仕事と考えると、若手の人たちは移行しやすいと思う。SNSも使い方次第かなと。
つまり、ファッションの民主化とショッピングの初期化。売りたいと思った人が、買いたいと思った人に売る時代。下手すれば、セレクトショップもジャーナリストもいらない時代になるのでは。

高野公三子:コレクションのゴールが東京はいろいろありすぎるから、よくわからなく見えてしまう。顧客向けにショーをしているブランドもあるし、人事的なエンカレジメントとして全国のショップの店長を招いてショーをするブランドもある。いろんなものがある中で、東コレが結局どこを目指すのかという枠組みがぐちゃぐちゃになっているからみんな悩んでいる。これから東コレはどっちを向くのかという意見を精査して、コミッティを作って提出するとか、それぐらいした方がいい。
今、東コレの過渡期というのはすごく感じている。だから、「see now, buy now」もやってみればいい。日本では、コミュニティとしてデザイナーと触れ合う場が大きいのか、個人オーダーの売り上げが大きいブランドが多いので、TERMINAL ORDER(ターミナル・オーダー)のように、そこをもう少しテクノロジーの力で整理していくことも解決策の一つとしてあるのでは。

・写真左:吉田圭佑氏(KEISUKEYOSHIDA)
・写真中央:小川徹氏(放送局プロデューサー) 
・写真右:高野公三子氏(アクロス編集部 編集長)  ©2016 Photographer T.Seki

   
   

セッションテーマ 2. TOKYOはアジアのファッションマーケットのハブになり得るのか、インバウンドにどう対応していくのか

ーー南馬越:東京コレクションがアジアのファッションマーケットのハブになり得るのか。それから、日本の市場の中でインバウンドが大きくなってきているところでの東京のデザイナーのあり方について話したいと思います。
アジアのファッションマーケットのハブになるということを、東コレは昔から標榜していたと思うのですが、ただそれは欧米に向けて売るということが主力で、欧米のバイヤーやジャーナリストを招聘するというのが多かったわけです。でも、実はアジアに向けた方が可能性があるのではないかという気がします。
というのは、今回のファッションウィークに登録したバイヤー686名のうち、海外のバイヤーは286名ですが、その内訳は、1位が中国63名、2位が香港20名、その次がアメリカ38名で、海外の登録バイヤーの3分の1が中国人のバイヤーであったりする。

それから、インバウンドに関しては、BEAMSの2014年度との昨対比率で言えば、300%なんです。それだけ去年一気に中国のお客さんが日本に来て買い物をしている。日本がアジアの中で買い物をする観光地として確立しつつある気がしていて、とくに中国のお客さんは日本のものが欲しいんですよ。そういうところで、セレクトショップのバイヤーも日本の新しいブランドを探し始めているという傾向は前回ぐらいから見えてきていて、実際にショーを見に来るようになったり、オーダーがついたブランドもある。実はアジアに持って行く以前に、日本で海外のほうに売るという選択肢も出てきているところもある。

今崎契助(PLASTICTOKYO):中国に卸させてもらっている店舗が何軒かあります。上海での展示会の予定も入っていて、売るという部分で魅力的ではあります。メンズだとおしゃれな人がまだ少ないということを本土のバイヤーさんはおっしゃっていて、逆に香港の方はおしゃれな人が多いので、別物と考えているらしいです。数に関しては、単純に店舗数が桁違いにあるので、一社でもそれなりに頂けたりします。

岩田翔(tiit tokyo):僕は中国と台湾に取引先があります。日本に来てくれて商売してくれるので、日本のお店とやりとりしているのとそんなに変わらないです。ただ、お金を先に入れてもらえるケースが多いので、そこはすごくしっかりしているイメージがあります。サイズ展開については中国でもよく言われます。それで、アイテムによっては難しい時もあったりします。サイズ展開を増やすというのは、意外とブランドにとって難しいし、チャレンジにもなってくるので。

三上司(TSUKASA MIKAMI):僕もアジアは魅力的なマーケットだなと思っていますが、まだちょっと検討中ですね。ビジネスの面で体制を整えてから臨みたい。

・写真左:今崎契助氏(PLASTICTOKYO)
・写真中央:岩田翔氏(tiit tokyo)
・写真右:三上司氏(TSUKASA MIKAMI)  ©2016 Photographer T.Seki

   

天津憂(Hanae Mori manuscrit):日本で売れないようなコレクションピースを買うのは中国の方が多い。パーティーシーンが多いので、お客さんを持っているのかなと。

森下慎介(LAMARCK):今、シンガポールなどはラグジュアリーの路線があったりして、大きなマーケットになりつつあると思いますが、やはり気候が日本とは違うので、例えばニットや羽織ものはいらないと言われて、アイテムが限定されてしまう。サイズ展開に関しては、日本のサイズをそのままグレーディングで大きくしただけでは対応できない。欧米の人は骨格そのものが違うので、そこから変えていく必要があって、ハードルは高い。

丸山:アジアを含めて海外に2、3は卸していますが、どの店にどういうふうに落としていくかというブランディングに合わせての卸をしていきたいと思っています。きちんと顧客さんが見えるところと丁寧にお付き合いをしていきたい。
海外でやっていた時に一番問題だったのが、日本で売れるものと海外で売れるものが全く違ってしまって、そのバランスを取るのがすごく難しかった。オケージョンがあるところにきちんと売っていきたいので、海外市場を考えた時に、あまりバラバラにならないように整えてから出していきたい。

落合宏理(FACETASM):アジアには大体卸していますが、国内と売れるものが違うので、ストレス解消をアジアでしているというか。とくに香港ではハイブランドと並ぶことが多いので、強いピース、自分が思いを込めたピースがやはりピックされる。そうなった時に、例えば香港でジバンシィの隣に置いてあったりすると、デザイナーという部分では上がる。東京では感じられない部分が起きるので、プラスになっている。東京で見せるものと、アジアで見せるものというのは全く違うなと。

ーー南馬越:日本のブランドが、香港や中国ではラグジュアリーやハイエンドのブランドと並べて置かれるというのは、もしかしたら中国の人もそういうふうに認めているのかもしれないですね。

丸山:というか、そういうマーケットしかない。そういう人しか洋服は買わないですね。日本が特殊なので。

・写真左:天津憂氏(Hanae Mori manuscrit)
・写真中央:森下慎介氏(LAMARCK)
・写真右:落合宏理氏(FACETASM)  ©2016 Photographer T.Seki

   

ーー南馬越:インバウンドに関してですが、高野さんはACROSS(アクロス)で、定点観測をしていらっしゃいますが、どうですか。

高野:最近よく読む雑誌は何ですかって若い子たちに聞くと、「インスタグラム」という回答が多い。でも、インスタってビジュアルとインスピレーションでフォローしたりするから、誰のインスタなのかすらわからないでフォローしていることもあって、そういうかたちで日本人も外国もシームレスにフォローしているのが今。あと、インバウンドで言うと、年間2回ぐらいトレンドマップというものを作ってクライアントワークをやっているのですが、「外国人枠」というトライブを一個作ったんですね。「インバウンド&アウトバウンド」というグループを作りました。これは、日本に頻繁に遊びに来ている、日本人に友だちがいる、日本人よりも日本のブランドに詳しかったりするみたいな人のグループです。そういう人たちがリアルに増えてきていると感じています。

軍地:経産省のアパレル・サプライチェーン研究会に入っているのですが、そこで、「ミドルクラスの消失」ということが言われていて、日本のものづくりってミドルクラスがすごく上手なんですね。安い服よりはベーシックにプラスアルファしている服というのが得意。実はそのマーケットの一番広いところはアジアのほうにあって、欧米だと高いものを買う人と安いものを買う人の差が激しいので、アジアのマーケットに向けて日本は発信していくべきだというのは結構言われている話なんです。
ただ、アジアのハブってやはり日本でしょ、東京でしょって思っているのは危うくて、韓国やシンガポールといったところが今、日本のハブ感をガッと取りに来ている。東京コレクションをスキップしてソウルコレクションを見に行っているバイヤーたちも出てきているという中で、どうやってプレゼンするか。

先ほども話に出たターミナル・オーダーは、フラットにいろんな国からものが買える仕組みなんですね。海外へシッピングをしたりとか、越境ECのシステムを作るとなると、すごくお金がかかってくるので、私が今、経産省に言っているのは、越境ECができる一つのプラットフォームを作ってくださいということです。新人デザイナーもそこに参加して、買ってもらえるようにしてくださいって言ってるんですけど、もっと言うと、Net-a-Porter(ネッタポルテ)Farfetch(ファーヘッチ)といった海外のECの中にいかに売り込むかということも大事。日本だけで発信しようって言っても、もう限界。やはり日本は極東ですね。であれば、ネッタポルテやファーヘッチといった世界中をカバーしているところでの日本ブランドの存在感をどのように高めていくか。
アジアだけではなくて、グローバルはもう当たり前。グローバルでやることを前提に、ブランド設計をしていくというのが大切。あと、日本の市場がちょっとコンサバなものばかり求めすぎるというところで、日本人のコンシューマーの質というのも問題になってきていて、日本の市場だとパーティー行かないじゃないですか。ケイタマルヤマのような夢のある服を着ていく場所がないという意味では、海外に市場を求めていくというのは私はいいと思うし、日本人のバイヤーさんも売れるものを中心に買うので、夢を描きにくいというのもあると思う。海外でコマーシャルシーンのものしか買わないとなると、日本のバイヤーの地位がどんどん下がってしまう。

ミーシャ:ミュベールが、ファーヘッチでショップを開設したらしいんですけど、普段はショップで展示しているような参考商品がすぐ売れたそうです。ファニーなものとかが海外だとすぐに売れて嬉しかったという話を聞きました。

軍地:デザイナーも、日本人向けということをやるとかなり狭いもの、定番プラスアルファになってしまうのですが、ドレスラインが海外で売れるというところでは、そこも含めてのブランディングをしていくように流れが変わっていくのかも。ターミナル・オーダーも海外から注文がかけられますし、テクノロジーの力で全世界を相手にしていくという商売にして欲しい。それによってお金の入り方も、ちょっとずつ考え方が変わるのではないでしょうか。

ーー南馬越:東コレも越境対応ですね。

軍地:とにかくジャンルも国も言語も男女間も。男女だけじゃないですよね、ゲイカルチャーもあるし。全てにおいてボーダーレスに生きていくというのが必要かなと。

寺澤:バイヤーは売れるものを買う人がどうしても多いのですが、私たちはピラミッドの考え方をしていて、見せる部分、コレクションの要素を持っているけれども頑張れば買えるもの、それから本当にグッズみたいな買いやすいようなものというような、いろいろ考えながらやっていく中で、なかなかピラミッドの一番上の、価格的にもデザイン的にも買いづらいものは手が出しにくい。変なものばかり買うと、買取消化の悪いバイヤーみたいな評価が付いてしまうので、それとの葛藤というのもバイヤーにはあると思うんですよ。
ファッションって楽しくあってほしいし、夢を与えてほしいと思う。ファッションにはそういう要素も必要だと信じてやっています。お客さまだってもっと楽しいことを待っているのに、売る側が売れないからという理由できちんと提案できていないところがあるのかな。

©2016 Photographer T.Seki
   

   
座学 2016-17年秋冬東京コレクションを振り返る 第1部 9人のデザイナーに聞く
座学 2016-17年秋冬東京コレクションを振り返る 第2部 全体討論: 東京コレクションの可能性

   
   

参加者: 
モデレーター:
南馬越一義(BEAMS創造研究所 シニアクリエイティブディレクター)
登壇者(デザイナー) *50音順:
天津憂(Hanae Mori manuscrit)/今崎契助(PLASTICTOKYO)/岩田翔(tiit tokyo)/落合宏理(FACETASM)/坂部三樹郎(MIKIO SAKABE)/丸山敬太(KEITA MARUYAMA)/三上司(TSUKASA MIKAMI)/森下慎介(LAMARCK)/吉田圭佑(KEISUKEYOSHIDA)
登壇者(ジャーナリスト、バイヤー、研究者) *50音順:
五十君花実(繊研新聞社 記者)/小川徹(放送局プロデューサー)/菊田琢也(ファッション研究者、Webマガジン「FASHION STUDIES」編集)/軍地彩弓((株)gumi-gumi 代表取締役、「ヌメロトウキョウ」エディトリアルディレクター)/高野公三子(アクロス編集部 編集長)/ミーシャ・ジャネット(ファッションジャーナリスト、ファッションブロガー)/寺澤真理(三越伊勢丹 婦人第一商品部バイヤー)
企画・運営:
篠崎友亮(ファッションスタディプランナー)/西田拓志(デザイナー兼coromoza主宰)
映像配信:
ヒラタモトヨシ