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Fashion y 019 キャリアの軌跡
プロダクトマネジャー 渡邉文佳

第19回目となるFashion yでは、スタイラー株式会社でプロダクトマネジャーを務める渡邉文佳さんをお招きしました。NTTデータにてキャリアをスタートさせた後、ディー・エヌ・エーへの転職を経て、ファッションアプリ『FACY』を運営するスタイラーに入社した渡邉さん。異業界からどのようにして現在のキャリアを築いたのでしょうか。

   

渡邉さんのキャリアの軌跡

渡邉さんが就職活動を始めた時期は、社会的就職難が続いていた就職氷河期の時期でした。渡邉さんはかなり早くから活動を始め、専門商社から内定を貰ったものの、社風に違和感を感じ辞退。就職活動をやり直し、その後内定した会社に入社されました。しかし入社後すぐに合弁の話が解消されて渡邉さんが所属していた部署が分社化されたことで、NTTデータに転籍することに。波乱の中、キャリアをスタートされました。

「当時は就職活動自体がとても難しいと感じていました。学生時代はやりたい仕事のイメージも湧きにくく、好きなものや、自分が利用するサービスから想像することしかできませんでしたが、就職活動を広げていく中で働くことの意義や自身の価値観も変化していきました。」(渡邉)

   
NTTデータではCRM(Customer Relationship Management)業務に従事された渡邉さん。CRMとは、顧客情報をデータベース化し、そこから個人の嗜好を汲みとり提案に活かすマネジメント手法です。渡邉さんは、主にコールセンターからの問い合わせ情報を活用するための仕組み作りや、コールセンターの運用、クライアントへのCRMシステム導入提案などに携わっていました。しかし、大企業に所属していただけに、自分自身が大きな組織の一駒に過ぎない、と感じることも少なくなかったようです。

「サービス全体を理解することも難しいですし、自分の仕事に対する顧客の反応がダイレクトに伝わってくることもあまりありませんでした。直接コンシューマーにサービスを展開できるような仕事がしたい、と思うようになりました。」(渡邉)

   
そこで渡邉さんが注目した企業がディー・エヌ・エーでした。当時の社長、南場智子さんに惹かれ、その1社に絞って面接に挑むことに。しかし、そこでこれまでの業務経験と、転職志望企業の業務内容とのギャップに直面します。

「NTTデータでも様々なことにトライしましたが、転職市場ではその主な経験から、『コールセンター業務をやっていた人』として見られます。ディー・エヌ・エーでやりたかったことはWeb事業で、Webサービスの企画・マネジメント経験が求められたため、未経験の私は難しいと転職エージェントからは言われました。そこで戦略的に、一旦はディー・エヌ・エーのコールセンターセクションを狙うことにしました。そこで今までのスキルをアピールし、転職活動は成功しました。」(渡邉)

   
しかしWeb事業を手掛ける部署に異動したかった渡邉さんは、そこで諦めませんでした。次に考えた戦略は、自分の名前を売るために、社内のビジネスプランコンテストに応募することでした。人事や役員の目に触れる機会を自ら作り、その後も社内の施策には積極的に参加するように。そして訪れたチャンスが、社内キャリア公募制度でした。迷わず希望部署に応募されたそうですが、なんとそこの面接官がビジネスプランコンテストで面識のあった人事部長でした。こうしてやる気を買われ、Web業界へのキャリアチェンジを果たされたそうです。その後渡邉さんは、オークションサイト事業、オンラインショッピングモール事業などに精力的に携わられました。渡邉さんの経験からは、待つのではなく、自分から切り開くことの大切さを痛感します。

そこからどのようにして、現在の職業へと転身されたのでしょうか。渡邉さんとスタイラー代表の小関社長との出会いは、遡ること2015年。Fashion Studiesのイベントで登壇された小関社長の話が興味深く、名刺交換をしてフェイスブックで繋がったことが始まりでした。それから1年後、小関社長が出演されたラジオをたまたま聞いたことがきっかけで連絡を取り、食事をすることになったそうです。

「そこで、現在勢いのある国、ベトナムに話題は移りました。友達が面白いと言っていたので、興味を持っていたのです。すると代表の小関も仕事で近日中に渡越することがわかりました。せっかくなので現地で会うことになり、その流れで会社を手伝うことになりました。今までは頭で考えてキャリアチェンジを行ってきましたが、スタイラーには直感的に転職しました。今までも積極的に未経験分野に挑戦してきました。大変なことも多かったですが、それらの経験もあって、今は何でも屋のようかもしれません。スタートアップ企業は事業の柱をこれから育てていかないといけませんが、楽しみながら取り組めています。」(渡邉)

   
人生何が起こるかわかりません。いつどんな扉が開けるかもわかりません。慎重に行動しつつも、時には心の声に耳を傾け、飛び込む勇気も必要。渡邉さんのキャリアの軌跡からは、そんなことを感じました。

   

スタイラーおよび『FACY』について

一般的にECサービスでは、キーワードで商品を検索することが多いですが、『FACY』は「秋らしい素材」「オフィスに着ていけるもの」など抽象的なワードを投稿することで、ショップ店員が直接商品を紹介してくれるという、コミュニケーション重視のチャット型ECサービスです。丈の長さやサイズ感など、店員に相談しながら購入を検討することができ、リアルなショッピングに近い感覚で接客サービスを受けられることが特徴です。こうしたサービスは、家具や住宅販売、転職相談などとの親和性も高いことから、スタイラーでは将来的に、蓄積した顧客データを元にした横断的なライフスタイルの提案も見据えているとのことです。またスタイラーは、ユーザーとショップ店員の生のやり取りを元にした記事の発信など、メディア運営にも取り組んでいます。通常アパレル業界では、ブランドが売り出したい商品の広告をうつことでトレンドを広める傾向がありますが、スタイラーはその逆です。今実際にユーザーが欲しいものをベースに記事にして発信することで、ユーザーはよりリアルなトレンドをキャッチできるのです。現在『FACY』に加入しているブランドは300以上。メディアにも多数取り上げられています。

   

キャリアに悩む方へのアドバイス

最後に紆余曲折なキャリアを経験されてきた渡邉さんから、キャリアに悩む方へのアドバイスをいただきました。

1.キャリアパスを考えすぎない
大抵の場合、キャリアは自分が思い描く通りにはなりません。環境の変化により自分の気持ちが変化することもありますし、企業に属している場合は、人事や上司など他者にキャリアを決められることがほとんどです。たとえ自分が望んだ状況でなくても、まずは目の前のことに集中すること。そこから世界が広がったり、自分がやりたかったことに結びつく場合もあります。例えば、「表現者になりたいからアーティストになりたい」という話もよくありますが、仕事上の日々のアウトプットも表現の一つです。自分の目指したい表現がそこでしかできないのか、問いかけながら考えることが大切です。

2.シビアな自己認識からスタートする
個々が特別な存在であることに変わりはありませんが、「自分には秘められた才能がある」と安易に考えない方がベターです。特別な能力は、目の前のことに取り組みながら身につけるものです。夢をあきらめたほうがいいという意味ではなく、客観的にどう見られるかを捉え、戦略を練ること。他者と比較したり、世の中の動向などから、自分本来の強みを冷静に考えることが大切です。もしすぐには分からなくても、考える過程で見えてくるかもしれません。

3.業界、職種をクロスする
日本の場合は、同じ業界、同じ職種に従事し続けることが多いですが、海外は転職回数や、それに伴う業界の横断も多い傾向にあります。「スキルの幅が広がれば環境の変化による対応力も身につくため、できる限り色々な職種、業界を横断した方がいい」と渡邉さん。ちなみにスタイラーの小関社長も、メガバンクに勤務後、Amazonにて決済サービスの事業開発を担当し、スタイラーでファッションアプリを立ち上げる、という横断的キャリアの持ち主です。金融、小売、ファッションなど様々な領域に精通しているため、講演の依頼も多いようです。

「ファッション業界も何十年も販売方法が変わらなかったり、売り上げが低迷しているのは、人の流動性がなく古い体質のまま変われていないからでは。」(渡邉)


4.海外に目を向ける
そもそもスタイラーがチャット型ECサービスに目をつけた理由は、アジアにあるようです。経済成長著しいアジア諸国では、オンラインでも自分で検索する習慣がなく、値引き交渉も当たり前。コミュニケーションを重視するため、チャット機能がないと売買が成り立たないのだそうです。

「『FACY』もアジア進出を目標にしています。チャット型ECサービスは中国、台湾、インドネシアでは当たり前ですが、そもそも日本ではそういったサービスを知らない人も多いです。また、店員がスマホを見ながら接客していることも多く、スマホの使われ方の常識にも日本とはギャップがあります。こういう感覚は実際に行けばすぐに感じ取ることができます。日本は少子高齢化で市場が縮小傾向にあるため、広い視野で物事を考えることは本当に大切です。」(渡邉)


海外に飛び出すことの必要性は、前回のFashion yでスタイラーの佐藤亜都さんも言及されていましたが、これからの時代、チャンスを広げるためには不可欠だと、改めて感じます。

5.就職する場合は、生活が成り立つ会社を選ぶ
ファッション業界は職種にもよりますが、他業界に比べ給与が低い傾向にあります。特に販売員は重要なポジションであるにも関わらず、日本ではあまり待遇が良くありません。

「生活に支障をきたしてまで夢を実現させようとすることはオススメしません。生活レベルを保つことは、キャリアを築くため、健康を維持するためにも必要です。安い賃金でも就職する人がいると、業界的にも変われないままです。」(渡邉)


渡邉さんのキャリアの道程は、人によっては遠回りに見えるかもしれません。それでも、キャリアへの情熱に突き動かされながらも現実を見つめ、これまでの過程を全て力に変えてきた渡邉さんだからこそ、伝えられるアドバイスです。

   

編集後記

多様なキャリアの選択肢がある現在だからこそ、悩みを抱える方も少なくないのではないでしょうか。20代後半の筆者も、悩みながらキャリアを築いている真っ只中のため、渡邉さんのお話には共感するポイントが多々あり、また勇気付けられました。最も深く頷いたのは、「キャリアパスを考えすぎない」という言葉。筆者自身、「現在の仕事は何かが違う。でもどこへ向かえばいいのか分からない」という状態の中、雲を掴む思いで目の前のことに取り組むことで、少しずつですが、霧が晴れていく過程にいます。

ファッション業界も、スタイラーの様なスタートアップ企業が提供する新たなサービスが支持されるなど、変革の最中にいます。そして、一つの発想に囚われず、様々な境界を飛び越えてきた渡邉さんの様なビジネスパーソンこそ、今後のファッション業界を牽引されるのだろうと感じます。

*文:青木桜子

   
   

Fashion y 019
キャリアの軌跡 渡邉文佳 スタイラー株式会社 プロダクトマネージャー

・開催日時:2018年2月13日(火)19時30分
・会場:エスモードジャポン東京校
・協力:繊研新聞社センケンjob新卒、READY TO FASHION
・登壇者:渡邉文佳(スタイラー株式会社 プロダクトマネージャー)

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登壇者プロフィール
渡邉文佳
スタイラー株式会社プロダクトマネージャー。NTTデータにてCRM業務全般に携わった後、ディー・エヌ・エー入社。 MobageのCS運用やショッピングモール事業でマーケティング・営業・サービス企画に従事。2017年7月にスタイラーへ参画。 ユーザーに最適なサービスを届けるためにチーム全般をサポートすると同時に、HRやPRなどにも従事している。