ニットに特化した服作りを展開するマラミュートの2シーズン目。2015SSのテーマは「transistor radio」。今シーズンは父との夏の思い出を編み込んだ。母や祖母との思い出からインスピレーションを得た先シーズンとは少し対照的だ。
夏休みに一緒に作ったラジオ。若かりし頃の父の写真。庭に咲くアジサイ。まるでラジオのチューニングを合わせるかのように、記憶の残波を探り、過去と現在とを調和させていく。デザイナーの小高真理さんは言う。「編む＝ニット」は、「一本の糸を使ったコミュニケーションツール」であると。
――2015SSシーズンのテーマとして掲げている「transistor radio」についてご説明ください。
昔、夏休みに父とラジオを作った思い出から今回はインスピレーションを受けています。つまみを回しながら電波をキャッチすると、小さな箱のスピーカーからいろいろな音が流れてくる。父とラジオを作るまでは、目で見えるものごとが全てでした。
目に見えない電波をキャッチするという理屈がなかなか飲み込めなかった不思議な感覚と、ラジオを作るための部品たち。それから、ラジオを作るときに、思い出として見せてもらった工学部時代の父の写真。1969年、1970年頃のものです。
以上のものからインスピレーションを受けてコレクション展開しています。
――先シーズンは「母と祖母」（女性）との思い出がイメージソースとなっていましたが、今シーズンは「父」（男性）との思い出でした。先シーズンとの違いについて、意識されたことなどありましたらお聞かせください。
前シーズンは感覚という部分を重視し、見た目でわかりやすいアイテムを作ったのですが、今回は落ち着いたロジカルな服作りをしてみました。一見シンプルですが、着て理解される着心地だったり、目に見えない部分でのこだわりに気付いて頂けたらと思います。
――ラジオの電波とマーブル模様を掛け合わせたアイテム（＊画像1）や紫陽花をモチーフとしたアイテム（＊画像2）が印象的でした。今シーズンも「花」がモチーフになっていますが、その辺りについてお聞かせください。
今シーズンのインビテーションはガクアジサイをイメージしてイラストレーターのmayaさんに描いて頂きました。ガクアジサイは夏のお花で、実家の庭に毎年たくさん咲きます。夏休みにラジオを作ったときも咲いていました。そのガクアジサイをジャカードのニットにしています。
今回のイメージビジュアルでも撮影している電波柄のマーブルニットは今シーズンのメインアイテムとなっています。
これは目に見えない電波をイメージした柄になっています。
――春夏シーズンの場合、ニットアイテムは制約（気温など）が多いかと思いますが、制作において意識した点などありましたらお聞かせください。
私はあまりニットに季節は関係ないと思っているのですが、どうしても秋冬のイメージになってしまいます。
今回は、そこを理解して頂くために先ほども言いましたが、着て理解される着心地だったり、目に見えない部分にこだわりを入れました。肌に当たる部分は肌触りはもちろん、通気性の良いシルクの糸を使用したワンピースや、伸縮性の良いもちもちした着心地の長袖のプルオーバーを提案しました。メインのジャカードは、柔らかい風合いの出る特殊なジャカードで編んでいます。
春夏シーズンは動きやすく、柔らかいシンプルなニットを意識してデザインしました。
――森栄喜さんが撮影した写真・ショートムービーについてお聞かせください。
今回、映像作品（「malamute 15ss collection movie “rendezvous” and “sea”」）を制作した背景として、コレクションのキーワードの一つである「チューニング」が挙げられます。ラジオの局番を合わせたり、ギターの弦を調節したり。チューニングというのは繊細な作業であり、バランスの取れていない状態からだんだんと調和させていくもの。自分の感覚を頼りに進めていく作業です。
一連の流れをカットなしで、森栄喜さんにお任せして、30秒程度のショートムービーを二つ撮影していただきました。音楽も今回の映像に合わせ、オリジナルで楽曲を作っていただきました。
――最後に、今後の活動についてお聞かせください。
「編む＝ニット」は、人間の共通言語のひとつだと考えています。一本の糸を使ったコミュニケーションツールです。誰でも、編み方や糸、編み針の太さに変化をつけることで、記号や、おしゃれ、想いを編み込んでいくことができるからです。
そんな昔からあるコミュニケーションツールを使って、現在のファッションを表現することがどれだけ興味深いことなのか、それを応用することでこれからどのようなニットを提案していけるのか。人とニットをつなぐ関係の奥深さにとても興味があります。今後はファッション以外の方とも積極的にコラボレーションしていきたいですね。
2009年文化女子大学卒業、2011年文化ファッション大学院大学卒業後、2012-13AWよりミキオサカベ、ジェニーファックスのニットを担当。2012年12月より自身のブランド「マラミュート（malamute）」を立ち上げ、ストールや小物の展開をはじめる。2014-15AWより本格的にスタート。
http://malamute-knit.com
