19世紀末から20世紀初頭のファッションとアートの関係について研究をしている。これまではソニア・ドローネーやグスタフ・クリムトなど、画家たちが行った服作りについて調べてきたが、現在はデザイナーやブランドの活動を、同時代の美術やデザインとの関わりから読み解いていくことに関心がある。そうした意味で最近、特に注目しているのが、今からおよそ1世紀前のパリで、ファッション界の「帝王」と呼ばれていたポール・ポワレである。ポワレは1906年にコルセットを取り払ったドレスを発表し、ファッション史にその名をとどめることとなったが、その彼が、従来のデザイナーの域を超えた幅広い活動を展開し、いわゆるライフスタイルブランドの基本形を作り上げていたことは意外に知られていない。
実際、ポワレの足跡をたどっていくと、その先見の明に驚かされる。たとえば、1911年に彼はデザイナーとして初めて香水をプロデュースし世に送り出すが、それはシャネルが「No.5」を発表するより10年も先駆けていた。また、同時代のアートシーンに精通していたポワレは、若手アーティストとコラボレーションを積極的に行い、世界初とも言われるファッション写真を実現したり、オリジナルのテキスタイルで服を仕立てたり、イラストが斬新なスタイルブックを顧客に配るなど、最先端のアートを取り込んだブランド戦略を次々に打ち出し、メゾンを急成長させた。その他にも、デザイン学校を開いたり、ハイセンスな家具や日用品を扱うインテリアショップを立ち上げるなど、あふれ出るアイディアはとどまるところを知らず、ポワレはその美学を衣服から香り、そして生活全般へと広げた。
今日では、服だけでなく、ライフスタイル全般をトータル・プロデュースするデザイナーも決して珍しくない。しかし、ポワレはすでに20世紀初頭に、それを成し遂げていた。現在、メゾンが残っていないため、ポワレの名はほとんど忘れ去られてしまったが、ライフスタイルブランドが全盛の今だからこそ、原点を見つめ直すことで、新たな気づきや発見があるのではないだろうか。
朝倉三枝(神戸大学)
2015/2
トークイベントのご案内:
Think of Fashion 025 ポール・ポワレ ライフスタイルブランドの先駆者
講師:朝倉三枝(神戸大学国際文化学部准教授)
日時:3/8(日) 18:00-19:30
場所:coromoza 東京都渋谷区神宮前6-33-14 神宮ハイツ408
金額:前売2000円/当日2500円/学割1500円(前売)・2000円(当日) *1ドリンク付
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