2013年の夏から、京都でコトバトフクというセレクトショップをやっている。とはいえ、やっていると威張れるほどのことを私はやっておらず、日々の経営は店長の藤井美代子さんにお任せだし、販売するブランドのチョイスや交渉は、ほぼ共同運営者の蘆田裕史さんにお任せで、まあ、私は楽しく近くで拝見させていただいているだけである。コトバトフクでは現在20ほどのブランドを扱っているが、どのブランドに声をかけ、そこから何を仕入れるかについても、オープン前の短時間で、藤井さんと蘆田さんが簡単なジグゾーパズルでも解くように、わけ無く決めてしまった。
大学で教育に関わっていることもあって、いずれセレクトショップを開きたいと目を輝かせる若者に遭遇することも多いが、自分たちで店を開いて以来、そういった若者たちに「で、店に何を並べるの?」と具体的に聞くようになった。だいたいの若者は、店に並べるブランドを聞かれると答えに詰まる。セレクトショップをしたいと言いながら、何をセレクトしたいか聞かれて困るなんて言語道断だが、たとえそれが答えられても「じゃあ、どのブランドからどのアイテムをセレクトするの?」と聞いたとき、きちんと商売になるようにバランスよく頭のなかで既に整理できている若者はほとんどいない。
勝手な想像だが、おそらく藤井さんも蘆田さんも、もう何年も前から、頭のなかでセレクトショップを開いていたのだろう。コートはこのブランドから仕入れるとして、ボトムはここから、そうすると色合いが偏るからこのブランドも、じゃあ小物はここかな、というようにやりくりもしていたに違いない。現実の店舗は、二人の頭のなかの店を融合させながら、狭い敷地の中に押し込んだものになっていると思う。
なるほど、こういう人たちは、店をやりたいと簡単に言えるわけだ。開店するのではなく、単に頭のなかから移転するだけなのだから。しかし店を持つというのは、たいがいそういうものなのかもしれない。頭のなかできめ細やかな経営をしていればいるほど、現実にもうまく経営できるのだろう。
井上雅人(コトバトフク/武庫川女子大学)
2015/2
コトバトフク:
日本の若手デザイナーの服、ファッションとデザインの本を中心としたセレクトショップ。
Webサイト: http://kotobatofuku.tumblr.com
twitter: @kotobatofuku