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映画『ドリス・ヴァン・ノッテン ファブリックと花を愛する男』

自然界が生み出した色や形の美しいバランスを熟知した人が作る独創的でエレガントな服。ドリス・ヴァン・ノッテン(Dries Van Noten)、59歳。職業、ファッションデザイナー。彼の素顔に迫るドキュメンタリー映画『ドリス・ヴァン・ノッテン ファブリックと花を愛する男』が2018年1月13日(土)よりロードショーされる。試写を見終えた私は、熱い気持ちに包まれたままペンに情熱を注ぎ走らせていた。

2014年2月、私はパリ装飾美術館にて開催された「ドリス・ヴァン・ノッテン インスピレーションズ」展を訪れた。彼のフィルターを通せば、民族衣装やアート、音楽や写真、どんなソースも魔法にかかったかのように美しさを吸い上げ服となるのだ。と、当時の私はメモにそう綴っていた。しかし、映画の冒頭でこのような言葉が飛び込んできた。「注目される服を生む魔法などあるわけない」。

私が魔法という言葉でまとめてしまっていた服作りのプロセスが、本編では明かされている。例えば、コレクションに向け、世界中から集まったファブリックを約4、5週間かけて選定することから始めるというこだわり。これだけファブリック選びに時間を費やすブランドは他にないとのこと。また、ドリスは丸投げを嫌うと断言しているとおり、チームで協議を重ねながら服作りをリードしていく姿が印象的だ。

このようにデザイナーであるドリスについてはもちろんのこと、自宅における普段のドリスもこの映画の見どころとなっている。パートナーであるパトリックとの旅行話や手料理の光景を通して、愛情深い素顔が垣間見える。私は、自宅でのシーンの中で、美しく保っているガーデンを見たとき、手入れにかける時間と花への知識量を想像し畏敬の念を抱いた。これほど自然を熟知しているドリスだからこそ、多色で多様な柄を美しいバランスで組み合わせることができるのだろう。そう感じているとふいに花を両手いっぱいに抱えて自宅に入るシーンと、2015-16AWのフィナーレで一斉に花柄の服が集まったときに浮かぶ花園のイメージとが重なって見えた。

花も服も魂を込めて、育てるからこそ美しい。魔法ではなくその情熱が、完璧な服となり私たちの元へ届いているのだ。さあ、あなたの情熱は燃えていますか。まずは、その情熱のかけらをいただきに、ぜひ映画館へ。

*文:瀬口莉子


映画『ドリス・ヴァン・ノッテン ファブリックと花を愛する男』
2018年1月13日(土)よりヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館ほか全国で順次公開中

・監督:ライナー・ホルツェマー
・音楽:コリン・グリーンウッド(レディオヘッド)
・出演:ドリス・ヴァン・ノッテン、アイリス・アプフェル、スージー・メンケス他
・上映時間:93分
・配給:アルバトロス・フィルム
・WEB:http://dries-movie.com