ニューヨークのFIT美術館で、いま「Faking It」と題する、非常に興味深い、また画期的な展覧会が催されている。Fakeとは、にせの、つまり、模造の,まがいの、といった意味だ。展覧会の正式なタイトルは “FAKING IT – Originals, Copies and Counterfeits”。訳すとすれば、「まがいものを作ってしまう―オリジナル、コピー、そして偽物」とでもなろうか。現在、何百億ドルに及ぶ「偽物」ビジネスが世界で繁栄している事実はまことに憂うべきものだが、ファッション・ビジネスは、実は、コピー、アイディアやインスピレーション借用、の上に成り立っている事実を突き付けられる思いがする。
「Faking It」展は、デザイナーのライセンス契約とディフュージョン・ライン(セカンド・ライン)が、「オリジナル」の定義をあいまいにしてきた、その歴史を検証し、提示する。
初代のクチュリエというべきチャールズ・フレデリック・ワースは、1860年代初頭に、ラベルに自分の署名を書きこむことを始めた。ワースのサインは、画家が自分の作品に署名をするように、本人の作品であることを証明するものだった。しかし同時にそれは、偽造者(Forger)にとっては魅力的なターゲットになった。20世紀に入ってポール・ポワレは、自分のデザインが米国で、ラベルも含めて違法にコピーされ13ドルの安値で売られているのを発見し、ポワレは自分のTrademark とデザインを登録するために戦った、という。
第二次大戦後、それまでは超富裕階層の特権であったオートクチュールが、経済力を持ちはじめた人々の憧れとなり、正式にコピー権をとってコピー商品を売るビジネスを高級店がスタート。その後のライセンス・ビジネスの土台を作った。1780年代には、デザイナー自身がビジネス拡大のため、ディフュージョン・ラインを開始。かくして、デザイナーのオリジナルは、そのエッセンスをどんどん薄められてゆくことになった。
展覧会では、そのほか、デザイナーが他のデザイナーやブランドからインスピレーションを得たケース。あるいは有名ブランドのロゴマークをパロディ的に使った興味深い例も展示されている。
ファッションの基となるのは、つねに「オリジナル」だ。そしてそれが、「魅力的」に見えることで、それに追従する人、すなわち市場が生まれる。しかし現在のように、デザイナーのコレクションが即日ネットで紹介され、街で他人が来ているカッコイイ服を写真にとって画像検索し、似たものを見つけることが容易になった時代に、「オリジナル」はどこまでその権威と権利をキープできるのか?
製品ばかりでなくロゴまでそっくりまねた「偽物」は、何としても排除したいが、ファッション・ビジネスの将来のためにも、私たちは、「コピー」について、もっと真剣に、しっかりと考える時期に来ている。展覧会は、4月25日まで開催されているので、是非多くの方に見て頂きたい。
尾原蓉子(ウィメンズ・エンパワメント・イン・ファッション会長/ハリウッド大学院大学特任教授)
2015/3
一般社団法人ウィメンズ・エンパワメント・イン・ファッション(WEF):
ファッション関連分野で働く女性の活躍支援団体。主要ポストおよび商品企画やMD分野の女性リーダーを増やすとともに、女性個人の成長・成功を助け、企業・産業の成長発展に繋げることを目的に設立。女性が主体性を持ってキャリアすなわち人生を生きるパワーを醸成することまた、ロールモデルの開発と表出にも注力する。
HP: http://www.wef-japan.org/
Fashion Business Blog 尾原蓉子のファッションビジネス新潮流:
http://yoko-ohara.com/
「Faking It」展:
FAKING IT – Originals, Copies and Counterfeits
ニューヨーク州立ファッション工科大学美術館(The Museum at FIT)
2014年12月2日〜2015年4月25日
http://www.fitnyc.edu/museum/exhibitions/faking-it.php