column 007

佐藤あづ(大学生/READY TO FASHION)

「そんなに好きなことを仕事にしたら、辛いだけだよ。」

小さい頃から自分が身につけるものは自分で選ばなければ気が済まなかった。通販カタログでお気に入りにマルをつけては母に提出、厳しい審査に通った1着だけが私の元に届く。待ちわびていたその服を纏った瞬間、まるで魔法にかけられたシンデレラのような気分になるのは、20年経った今でも変わらない。ただおしゃれをすることが好きで、素敵な服に囲まれていれば良くて、仕事にしようとは全く思っていなかった。でも、この本当にちいさな一言がきっかけで、ファッションの道に進もうと決意した。自分の中でその問いの答えが見つかるまで、私はファッションから離れられない。

もう一つのきっかけは、ショー。フランス留学中に目撃した「パリコレ」に魅了されてしまったのだ。雑誌や映像でしか見たことのない光景が目の前に広がる。音楽が鳴り、それを無視するかのように颯爽とモデルが歩く。人が服を着て歩く、なんてことのない動作のはずなのに、風に揺れる布がこんなにも美しいと感じたのは初めての感覚だった。パリコレって本当にあるんだ、と馬鹿げた感想しか持てないほど、衝撃で思考が停止してしまった。

ファッションショーは、終わりと始まりが共存する瞬間だ。クリエイターが半年分の魂を込めて作り上げた作品を世に出すゴール地点であり、彼らの手を離れて作品が商品になり、バイヤーやメディア、販売員など様々な人を介して私たちの元に届くまでのスタート地点でもある。そんな瞬間に立ち会えるのは、ショーしかない。パリコレ見たさに単身渡仏を繰り返し、先ほど5シーズン目の追っかけが終了。次こそは仕事で来てやる、とDiorの特設会場を前に静かに誓いを立てる。4月からはいよいよファッション業界で働き始める。ようやくスタート地点だ。私も誰かに、ファッションを通して人生を変えるきっかけのきっかけを与えたい。
 
「そんなに好きなことを仕事にしたら、辛いだけだよ。」
何度も言われたその言葉。でも、
「好きでもない男に泣かされるなら、好きな男に泣かされたい。」
これを合言葉に、今日もファッションに片想い。

佐藤あづ(大学生/READY TO FASHION)
2015/3

   

READY TO FASHION:
日本のファッション業界において「産業と学生を繋げる」というコンセプトの下に発足したプロジェクト。
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