interview 003: LAMARCK

進化と研究発表

LAMARCK

『動物哲学』で知られる博物学者の名前をブランド名とするラマルクは、「進化」を服作りのコンセプトに据える。しかしそれは、進化した服を創るというよりも、絶えず変化する時代のなかで、見る人や着る人に新しい発見や気付きを促すような服を提案していくという意味合いが強い。
ぜひ実際に手に取って確かめてみてほしい服というのがあるが、ラマルクの服もそうで、素材やカッティングの選択一つ一つに考え抜かれた跡があって、その意図をついつい聞いてみたくなる。対話したくなる服というか。
デザイナーの森下慎介さんは言う。もっと考えるようなファッションをしたいと。

ちなみに、ジャン=バティスト・ラマルクは、ダーウィンが『種の起原』を発表する50年前に、生物は新しい環境に応じて漸進的に変化するといった進化論を説いた人物である。
(収録:2014/12/19 *聞き手:菊田琢也)

   

ブランドを始めるまでの経緯

――服作りを始めたきっかけについてお聞かせください。
母が洋裁をやっていたんです。プロというわけではないのですが、服を作るのがとても好きな人で、幼い頃は母が作った服を着たりしていました。服を作るということが、当たり前の光景として生活のなかにあったというのが、まず根底にあります。
高校は私服で通える学校でした。裏原ブームの時期で、毎週のように原宿へ行っていましたね。ファッションが好きで、大学ではファッション・サークルに入りました。学内外でファッション・ショーを毎年行っていたのですが、自宅にミシンがあるということで、僕は制作担当になって。服のデザインをして、皆で作るということを4年間続けました。
大学を卒業後、文化服装学院の大卒用のコース(服飾研究科)で1年間学び、BFGU(文化ファッション大学院大学)へ進学しました。

――BFGUに進学されたのは、もう少し専門的に突き詰めたいという理由からでしょうか?
そうですね。服飾研究科の頃は基礎的な勉強がメインで、実習がほとんどだったので、もう少しデザインのことを勉強したいと思って。

――BFGU時代に特に追求していたものはありますか?
パターンに凝っていました。それから、コレクションの作り込みです。課題で毎シーズン10体くらい、自分でテーマを決めて作るんです。自分の考えたコンセプトに合わせて複数体を制作し、1つのコレクションにまとめるという作業がすごく好きで、ポートフォリオの作成などにも力を入れていましたね。

――パターンの面白さとは何でしょうか?
平面上で複雑なかたちをしているものが、縫うときちんとした服のかたちになるところでしょうか。平面のものが立体になったときにどうなるかというのが面白いなと思っていました。

――その頃に影響を受けたデザイナーはいますか?
好きなデザイナーはけっこう多いのですが、川久保玲さんや山本耀司さんはもちろん、海外だとニコラ・ジェスキエールやマルタン・マルジェラですね。

――その頃から今のような方向性で作られていたのですか?
いや、違いましたね。全く違うというわけではないのですが、BFGUの頃はパターンを軸にしていたというか、パターンからの表現という部分が大きかったです。現在はそれを削ぎ落としていった感じでしょうか。
マニッシュやクリーンな空気感はその頃から追求しているのですが、もっと構築的なかたちだったりしていました。それをもう少しリアルにしているのが現在ですね。

・「COEXISTENCE」(2015SS)
   

進化と研究発表

――BFGUを修了してすぐにブランドを始めるわけですが、その経緯についてお聞かせください。
もともと自分でブランドをやりたいとは思っていたのですが、まずはどこかの企業で2、3年経験を積んでからという考えがあって、採用試験をいくつか受けたんです。その頃はパタンナー志望で受けていたのですが、その時に何人かの方から「企業に入るより、自分でやったほうがいいんじゃないか」というようなことを同時に言われ、さらにBFGUの先生からも自分でやりなさいと勧められて(笑)。それで、その年がちょうど文化ファッションインキュベーションが出来るタイミングだったので、審査を受けてみました。
それから、新潟県の見附市が「MITSUKE KNIT(ミツケニット)」というプロジェクトをやっているのですが、それに学生の頃から関わらせてもらっていたり、そうしたことが色々重なって、では4月からブランドをやりますという感じでした。

――それで、「ラマルク(LAMARCK)」という名前でブランドを始められるのですが、目指している服作りはどのようなものですか?
「研究発表」のようなかたちにしたいというのがあります。服作りを実験みたいな捉え方で考えていて、そういう意味合いで「進化」というコンセプトを掲げています。「学説」のようなニュアンスを含めたいというか。
ブランド名は19世紀初期フランスの博物学者であるジャン=バティスト・ラマルクから取りました。「進化(évolution)」に対する彼の考え方を服に置き換えたとき、自分のコンセプトとシンクロするなと思ったんです。生物が進化をして、それが後世に受け継がれていくという考え方なんですけど、ファッションにも当てはまるなと。

――毎シーズン明確なテーマを掲げてコレクションを作られるじゃないですか。それは、研究題目のような位置付けなのでしょうか?
そうですね。そういう形式を取っているので、毎シーズンのテーマ名はわざと難しくしています。プレスリリースに載せる文面も、あまり説明的にならないように、詩のような、二行で終わっちゃうくらいのものにしています。
楽しいファッションもいいと思うのですが、もっと考えるようなファッションをやりたいんです。解りにくいと思う人もいっぱいいると思うのですが、ただ「解らない」で終わらせず、もう少し考えてほしいなと思っていて。どういうテーマなんだろう、どういう背景なんだろうと考えてほしいんです。実際に服を見てもらったときに、ああこれはこういうことなんだという発見があってほしいというか、そういう服作りを目指しています。

LAMARCK 2015 SPRING / SUMMER COLLECTION
“COEXISTENCE”

ー共存ー
自然における散点・多層構造の集約
多重化するスタイルの再編と 有機性へのアプローチ 
(2015SSプレスリリースより)

   

――となると、毎シーズンテーマありきで制作していく感じですか?
面白い素材を見つけて、そこから発展させていくというのもあれば、先にテーマを決めてしまって、そこにデザインを当てはめていくなど、やり方は毎シーズンバラバラです。素材も探しつつ、次はどういうことをやりたいかを考えてというのを同時進行させていく流れですね。

――「実験」というのは、繰り返し試行を積み重ねて、データを取って分析し、結果を改善・更新させていく作業じゃないですか。ラマルクの服作りもそのような作業と捉えてよいのでしょうか?
そうですね。基本的には毎シーズンやっていく上で課題はたくさん出てくるので、そこを直しつつ、新しいものへ、次のテーマでどういうふうに置き換えようかと考えます。作っているもの自体に対するブレはなくて、それを修正修正、アップデートしていっているような感じですね。

――今回一番お聞きしたかったのが、コンセプトに掲げている「服の進化」についてです。どのように捉えているのかなと
よく言われるのが、ラマルクの服はクリーンというかシンプルな印象なので、どういうところが進化なのって。「進化」と聞くとコム デ ギャルソンのような服を思い浮かべる人が多くて。服ではない服というか。

――新しさの追求ですよね。これまでにみたことのない服のかたち…
そう、そういうものを考える人が多くて。でも、僕がやろうとしているのは、あくまでベーシックなもの、シンプルなもののなかに新しさを付け加えるという作業なんです。それがカッティングなのか素材なのかというのは毎回変わるのですが。
着ていて、友だちや知り合いに、その服どこの?って聞かれるような服を作りたいというか。それってたぶん、どこかしらいい意味で違和感のようなものがあるということだと思うんです。それはありきたりの服ではない、何かしら一歩進んだものだと感じてもらえていると思っていて。そういうものを作りたいんですよ。
見た目で何か変わったかたちを求めるとかではないんですよね。中身というか、もうちょっと本質的なものだったりするのかもしれませんね。

・左2枚:「PARADIGM UNDULATION」(2013-14AW) ・右2枚:「UBIQUITOUS EXPRESSION」(2014SS)

   

異なる要素を組み合わせる

――ファースト・コレクションは?
2011年の10月発表(2011SS)です。そのときは展示会ベースで、東京コレクションへの参加は2013-14AWからです。なので、ファッション・ショーは今回(2015SS)で4シーズン目になります。

――2013-14AWは、渋谷ヒカリエの8階で披露したショーですよね?
そうです。8階の真ん中の緑のスペースでやりました。会場をすべて真っ黒にして。JFWの方からお話を頂いて、そのスペースで何かやらないかと。「N/E/W/S/T/D(ニュースタンダード)」というイベントがあって、その一環で。基本は展示会というかインスタレーション形式主体のイベントなのですが、無理やりファッション・ショーを行いました。

――ショーって演出やヘアメイク、スタイリングなども含めてトータルに構成していくものだと思いますが、ショー形式の発表をするようになったことが、服のデザインに変化をもたらした点などはありますか?
もともと、デザインをする際、ある程度ルックの状態を想定しながら考えているので、大きな変化はないかもしれません。基本は1ルックとして考えて、あとは並び替えたり、組み合わせを変えたり、そこからバラバラにしていく感じですね。

――ショーは、モデルの動作なども重要な要素になってくると思いますが、その辺りで意識していることはありますか?
ショーではそういうところを見てほしいですね。かたちがフレアだったりすると足で蹴ってしまったりもするので、後ろに分量を持ってきたりだとか、そういった点は意識しています。

――演出やヘアメイクは決まった方が担当されているのですか?
演出は最初から同じ人が担当していますが、基本的に演出をしないという演出で(笑)。派手なショーをやりたいとはあまり思っていなくて、作ったものをきちんと見てもらえるような見せ方をしていきたいと思っています。
ヘアは、Kunio Kohzakiさんが先シーズンまで担当してくれていました。毎回面白いスタイリングを提案してくれて、服がシンプルな分、ヘアで面白さが伝わるかなと。今回(2015SS)は、彼のアシスタントをしていたSachi Yamashitaさんの仕事です。

――演出やヘアメイクについても、森下さんからアイデアのを提案したりするのですか?
基本的に僕も考えますが、ヘアメイクの人から意見をもらったりしながら、相乗効果で面白いことができればというかたちで発展させていっています。必ずしも僕が考えたことがすべてショーで出ているかというとそうではなくて、みんなの提案や意見を取り入れたりして変わっていくという感じですね。

――先シーズン(2014-15AW)のテーマは「CATAGENESIS(退行的進化)」でした。また、「UBIQUITOUS EXPRESSION」(2014SS)、「PARADIGM UNDULATION」(2013-14AW)といったように、2つの単語を組み合わせてテーマに設定するかたちが多いと思ったのですが?
はい、そのかたちは毎シーズン行っていますね。異なるものを組み合わせるというのはすごく好きです。

――それで、今シーズンのテーマが「COEXISTENCE(共存)」で、相異なるものを共存させるというかたちでストレートなテーマを持ってこられていたので、一つの節目というか、転換期のような位置付けに思えたのですが?
そうですね。確かにそういう意味も含まれていますし、これまで作っていたものよりも少し幅を広げた感じが出ていたと思います。いろんなスタイルをミックスさせて、少しカオスっぽい感じにしたかったというのがあったのですが。

・「CATAGENESIS」(2014-15AW)
   

2015SS、植物/社会の共存

――まず、会場(リストランテASO、代官山)がとても良かったです。テーマとすごく合っていて。
そういう部分で決めたというのもあります。中庭の緑が映えるガラス張りの空間と、ホテルのサロンのような空間が一緒になっているところが、テーマと共通しているかなと。

――ヘアスタイルも印象的でした。ショー当日は大雨で、モデルたちがみんな湿気で髪が額に貼り付いているようなヘアスタイルで登場してきたので、当日の天気に合わせて急遽決めたのかなってふと思ったのですが(笑)。
事前に決めていたものです。髪を、木の根のように顔に添わせるというイメージです。実は晴れた場合は中庭でインスタレーションをする予定だったのですが、雨でできなくなってしまって(笑)。

――「植物」というのがまずイメージの一つとしてあったのでしょうか?
そうです。植物と社会との共存というのがまず根本にあって、そこからいろんなものの共存というかたちへ発展させていきました。植物っぽいものと人工物っぽいものを共存させるというのが、一応土台にはあります。花のモチーフに、フューチャリスティックなサングラスを合わせたり。

――なるほど。細かい手仕事と、工場での作業を共存させたものなども多かった気がします。
そうですね。最後辺りのルックはそういう意味合いでやっていました。 

――この(*画像1)、1枚のレース生地から何百枚もの花を切り取って、それらを一つ一つ手作業で縫いつけて制作した作品は印象的でした。
縫いつける作業はアトリエで行いました。切り取るだけで相当時間がかかりましたね(笑)。量産するのが難しいので、ショーピースという扱いで、オーダーが入れば生産というかたちを取っています。

――この辺り(*画像2)の生地の表情も面白いですね。
カットジャガードですね。これは木の表面の樹皮のイメージです。

――植物的なモチーフを取り入れるのは今シーズンが初めてですか?
いえ、ここ2シーズンくらい行っているものです。2014-15AWでも、植物っぽいモチーフのニットを作っています。袖などに刺繍が入っているニットです。

――生地はどちらのものを使っているのですか?
生地は福井や、岐州(岐阜)などが多いですね。今シーズンは福井のものです。

――ちなみに、どういった素材がお好きですか?
ハリ感が多少あって、シワにならない生地が好きですね。とろっとした生地というか。

――シワがお好きではない?
シワになってしまう生地を選ぶのであれば、シワになっている生地を買いますね(笑)。

――「とろっとした生地」というのは具体的にどのような生地ですか?
シルクなど、トロミのある生地です。あまり薄手の素材は使わないんです。シルクでも少し肉厚のあるものを使ったり、あとはトリアセテートとか、そういう系の生地が好きですね。秋冬だとツイードは比較的毎シーズン使っています。

――今回はパリの展示会にも参加されたんですよね、反応はどうでした?
今回はショールームの展示会に参加させてもらいました。まだブランドとしての認知度がそれ程でもないということもあって難しい面もありましたが、反応自体は良かったですね。

――日本と海外とで、注目されるポイントが違ったりはしますか?
海外では「和」っぽいものがやはり好まれる気がします。この辺り(*画像3)の羽織みたいなものに気を留める方が多かったですね。着物スリーブでラペルがあるんですけど、少し抜けた感じが良かったみたいです。

・左:画像1 レース生地から切り取った何百枚もの花を、手作業で縫い付けたドレス
・中央:画像2 樹皮をイメージしたカットジャガードを使用したルック ・右:画像3 着物スリーブのコートジャケット

   

作り込んだ素材を製品レベルに落とし込む

――制作は何名であたっているのですか?
制作に関しては、基本的には僕とパターンナーの2人です。今回からパターンナーが入って、手の凝ったものを作る時間がより取れるようになりました。以前よりも、デザインに割ける時間が増えたというのは大きいです。

――手仕事に特化したものを、もっと作っていきたいということでしょうか?
僕がいまやりたいと思っているのは、作り込んだ素材をもっと製品レベルに落とし込んでいく作業です。こういった発想を商品にするにはどうやったら良いのか、どういった素材を使ったら良いのか、そこの落とし込みが課題ではあったりします。
凝ったものを商品として出していきたいのですが、それは手仕事に力を入れたいという意味ではなくて、そういった要素を含んだ服を作りたいということですね。

――現在のファッションについて何か思うところはありますか?
以前よりも熱があまり感じられなくなってきているというのはあります。どこか冷静というか。それはそれで良いのですが、どうしても欲しい服があって、がんばってバイトしてでも買いたいという熱意がなくなってきているかなと。それは、デザイナーとしてはそういう服作りをしないといけないということでもあるのですが。少し前までは、そういう空気があった気がするんですよ。

――服がただの消費物になってしまっているような気がします。以前は、服を作っている人の考えとか趣味趣向などが服を通してもっとダイレクトに伝わってきていたと思うのです。それが現在、いまいち届いていない気がしていて。それは、作り手の発信する力が弱くなったというよりも、気付かれにくい環境になっているのかなと。
最後に、今後目指すところについてお聞かせください。

全体的にもっと作り込みたいなというのがあります。ショーを盛大にやろうとかではなくて、単純に人に着せて、見せたいだけなんです。形式云々というのはあまり気にしていなくて。コレクションを実験的なものの発表の場というふうに捉えていきたいので。作り込んだものをじっくり見せられる場を大切にしたいです。

   

森下 慎介(もりした・しんすけ):
大学卒業後、文化服装学院、文化ファッション大学院大学を首席で卒業。在学中にはパリで開催されたフランス婦人プレタポルテ連盟主催『プレタポルテ・パリ』にてランウェイショーを行う。その他、海外での展示会・ショーに参加。アーティストへの衣装提供も行う。2011年、文化ファッション大学院大学を卒業と同時にブランドスタート。2012SSよりコレクションデビュー。2013-14AWよりMercedes-Benz Fashion Week TOKYOに参加。
博物学者ジャン=バティスト・ラマルクが提唱する「前進的進化」をキーワードに、絶えず変化し続ける時代や事象と共に、着用する人が新しい自分を発見できる衣服の提案を目的とする。
http://lamarck-tokyo.com